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VOL.1-8  2000年2月

「伊豆半島南部の雑木林」
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 ふだん関東地方の中部以北に住んでいる人が伊豆半島や房総半島の南部に行くと,風景がいかにも南国的になった印象をもつことでしょう.これには,里山に広く分布している雑木林のタイプが地域によって異なることが関係しています.里山の雑木林というと,冬には落葉して林内が明るくなるコナラやミズナラの林が有名ですが,冬季も温暖な西日本の沿海域を中心として,冬でも緑の常緑広葉樹(照葉樹)の多い雑木林が広く分布しています.
 写真1〜3は,落葉樹が芽吹き始めた4月中旬に静岡県南伊豆町の吉祥付近で撮影されたものです.写真1の山麓の薄茶色の部分は,芽吹き始めた夏緑広葉樹(落葉広葉樹;コナラ,ヤマザクラなど)が多い樹林です.一方で,山頂を中心とした濃い緑の部分では,冬も緑の常緑広葉樹(シイノキやウバメガシ)が優占しています.

    

写真1                          写真2

 このような常緑広葉樹林は,関東平野などの社寺林でみられるような自然林ではありません.これらは,昭和30年代の燃料革命以前は15〜20年前後の周期で定期的に伐採され,薪炭用材採取などの目的で利用されてきた雑木林(二次林)です.写真2は,1985年の段階でまだ伐採利用が続けられていた林の,伐採から1〜2年後の様子です.写真中央に点々とみられる緑は,伐採後の切り株から何本もの常緑広葉樹の枝が成長したものです.
 写真3は,写真2のような状態から10年程度を経て,緑色の常緑広葉樹が薄茶色の夏緑広葉樹と競い合うようにして成長している様子です.伊豆半島南部のように冬季も温暖な地域では,伐採された後でも,自然林を構成する常緑広葉樹がしばしば夏緑広葉樹と対等もしくはそれ以上の勢いで成長していきます.その結果このような地域では,繰り返し伐採された雑木林でも常緑広葉樹がよく生育しているわけです.


    
写真3                         写真4 

 また,雑木林における常緑広葉樹と夏緑広葉樹との力関係は,立地条件の違いによっても異なってきます.写真4は,下田市の蓮台寺付近の南向き斜面に成立した雑木林で,6月上旬に撮影されたものです.この斜面では,常緑広葉樹のシイノキ1種が圧倒的に優占していました.このように,冬季も温暖な南向き斜面,尾根斜面や西向き斜面では,冬季の気温が比較的低い北向き斜面,谷斜面,東向き斜面に比べて,常緑広葉樹の多い雑木林が成立しやすいことが知られています.
 以上のように雑木林においても常緑広葉樹がよく再生する地域は,琉球列島や九州・四国の沿海域を中心として,太平洋沿岸では紀伊半島や伊豆半島の南部を経て房総半島の南部にまで達しています.

<写真1〜3:1985年4月19日,写真4:1985年6月6日,磯谷達宏 撮影>