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VOL4-12  2002年12月

氷河の村サースフェー(その1;地形編)
※写真が多いので、電話回線での閲覧は時間がかかります。
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 スイスの南部・ヴァリス州(ヴァリス・カントン)にサースフェー(Saas-fee)という村がある.「アルプスの真珠」とも呼ばれる小さな村で,人口は1500人余り.有名なツェルマット(Zermatt)とは,スイス(の国土内に山体が全て入っている山としては)最高峰であるドム(Dom4545m)をはさんだ東側の谷にある.ドム以外にもアラリンホルン(Allalinhorn4027m),アルプフーベル(Alphubel4206m)などの4000m峰に囲まれ,それらの山々からいくつもの氷河が流れ込んでくることから「氷河の村」とも呼ばれている.

写真A                                     写真B

 村にもっとも迫ってくるのがフェー氷河(Feegletscher)である(写真A).手前がサースフェーの村.ガイドブック(『地球の歩き方・スイス2002-2003年版』)によれば,氷河末端が「まれに轟音を響かせて大崩落を起こし,観光客を驚かせることもある」とのこと.

写真Bは村を通り抜けた村はずれあたりから見上げたフェー氷河.写真ABとも氷河の下(下流側)に,谷をせき止めるように伸びる堤防状の高まりが見られる.これはターミナルモレーン(端堆石;氷河の末端に形成されたモレーンの地形)である.ここではモレーンが針葉樹林に覆われていることから,谷の下流側に凸になっている弧状の平面形状がよく分かる.写真Bの右下(2つの照明用電柱の間)に露頭が見えるので,露頭観察に行ってみよう.

写真C                                 写真D

 写真Cは露頭により近づいたところ.中央やや左に数人のハイキング客が見える.これからも分かるように,このモレーンの高さは約3040m

写真Dは露頭の様子.無層理無淘汰の角礫層からなり,典型的な氷成堆積物(ティル)の層相を呈することからも,この高まりがモレーンであることが確認できる.堆積物中の礫の大きさを,スケールとしておいたボールペンと比較されたい(写真E).

写真E                            写真F

 写真Fはモレーンを越えて,モレーンの上流側(弧の内側)に出たところ.上部にフェー氷河があり,そこから融氷水が川となって流れている様子が見える.撮影日前日,村では雨(より高いところでは雪)だったので水量が多かった(「地球温暖化」と安易に結びつけないように……).

写真G                                  写真H

 写真Gはモレーン内側の壁.モレーンに横縞状の模様がみえることもターミナルモレーンの特徴である.写真左下には赤いシャツのハイキング客がいるのでモレーンの大きさと比べてほしい.

氷河の溶水が運ぶ岩屑(アウトウォッシュ:融氷流水堆積物)は粒子が細かく,「砂利」としての利用価値が高い.ここでもモレーンの内側で砂利採取が行われているようであった(写真H;氷河からの川が流れているところではよくこうした風景が見られる.ツェルマットの街はずれにも採石場があるので行ったら見てみるとよい).ちなみにこの場所,はっきりと水がたまっている訳ではないが,氷河湖(Gletscher See)と呼ばれている.

写真I                             写真J

写真Iは,氷河湖の畔あたりからフェー氷河を見上げたもの.左側の山小屋が2つ見えるのは,フェー氷河の2つの氷舌間にあるメディアルモレーン(中央堆石;谷氷河の中央部に,氷河の流動方向に沿って帯状に連なるモレーン).さらに上にはロープウェイの駅も見えるが,ここはレングフリュー(Laengflue)という展望台である.

 氷河についての説明板も整備されているところが,さすがTourismの先進地・スイスといったところであろう(写真J).

 来月は氷河の村・サースフェー(その2;人文編)の予定.

<氷河および氷河地形に関する記述については,本学非常勤講師・長谷川裕彦先生(専門は氷河地形,地生態学)からご教示・ご助言いただいた.先生は2003年度の「第四紀学」も担当されます.氷河地形に興味ある方の受講をお勧めします>


<写真A〜J:いずれも20028月,加藤幸治撮影>


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