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VOL.5-09  2003年09月

北八ヶ岳縞枯山の植生景観
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 日本では、亜熱帯から亜寒帯にかけての多種多様な森林植生を見ることができる。北八ヶ岳の縞枯山付近には、シマガレ現象で世界的に有名な針葉樹林が広がっている。

写真1 写真2

 縞枯山付近では、標高1800m付近までは温帯の落葉広葉樹林帯である。内陸性気候が卓越するこのあたりでは、ブナ林ではなく大陸のモンゴリナラ林と類似したミズナラ林が広がっている(写真1)。標高1800m付近から約2400mまでは亜寒帯(亜高山帯)で、おもにモミ属の針葉樹(シラビソ、オオシラビソ)からなる常緑針葉樹林帯となっている(写真2)。

 写真2をよく見ると、手前に見える森では濃い緑の針葉樹林の中に、黄緑色の落葉広葉樹の小林分が点在していることがわかる。これは、自然林で普通にみられるギャップ更新の結果生じたものである。森林において台風などで大木が倒れて林冠層に穴(ギャップ)が空くと、そこではまず成長の速い先駆性の樹木が生育して、ギャップを埋める。写真3は、規模がきわめて小さい事例ではあるが、成長の速い落葉広葉樹(黄緑色のダケカンバと紅葉の始まったナナカマド)がギャップを埋めている様子がわかる。

写真3 写真4

 いっぽう、写真2の上部に広がる山頂近くの針葉樹林では、白色の縞模様が横方向にのびている。この様子を拡大したのが写真4である。白色の縞模様が3列走っている。このような現象は、シマガレ型更新(wave regeneration)と呼ばれており、森林の世代交代の一様式である。シマガレが生じる条件としては、@モミ属の常緑針葉樹の優占、A強い卓越風の存在、B未成熟な土壌の存在、があげられている。縞枯山の山頂周辺の南斜面でみられるシマガレ現象は、典型的で規模も大きいため、世界的に有名である。

写真5 写真6

 シマガレは、山体の下部から上部に向けて、平均的には1年に約1mの速さで動いている。写真5はシマガレの上端部、写真6はシマガレの下端部で、いずれも下から上に見あげた様子である。上端部では、未熟な土壌に生えた針葉樹が卓越風に晒され、寿命よりもかなり若い段階で枯死している(写真5)。シラビソなどの針葉樹は、直径20cm程度の大きさに育った頃に、縞の移動によって強い卓越風に直接晒されるようになる。そして、岩石の多い未熟な土壌に張った根が傷んで、寿命を待たずに枯死してしまうのである。しかし、林床では後継の針葉樹が着々と育っている。縞ができてからの時間がより長く経過した縞の下部にいくほど、後継樹はより大きく育っている(写真6)。そして、さらに下方にいくと、開花・結実する個体も見られるようになるのである。

<写真1〜5:2001年10月3日,写真6:2002年10月3日,磯谷達宏撮影>



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