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VOL.8-06  2006年06月

王立ヨルダン地理センター

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2005年の春先にヨルダンにいたときの話は、以前このコーナーに書いた。その後、この年の夏にもひと月滞在することになり、このときの話は私(長谷川)のページに少しだけ愚痴っぽい話をのせた。今回の話は、このときに何回か訪問する機会のあった、王立ヨルダン地理センター Royal Jordanian Geographic Center(日本でいえば国土地理院のようなところ)の話である。

調査をしていると、どうしても地形図や空中写真がほしくなる。地形図はこの国を訪れる前に、UCLAバークレー校の図書館にあるサイトから、米軍やソ連軍が作成したものをまとめて入手した(今はなぜか見えなくなってしまった)。これらの地形図は、なかなかのものであったし、とくに前者は注記が英語なので助かった。ところで、この年の夏には、仕事上のパートナーであるヨルダン考古局長官名の書類があると、Royal Jordanian Geographic Centerが出している新しい地形図や空中写真が購入できるということになった。これはうれしかった。早速、朝暗いうちからバスを乗り継いで首都アンマンへ・・・ が数回。何事も1回では片づかないお国柄である。

Royal Jordanian Geographic Centerは国軍の管轄下にあり、入口の検問所でパスポートをあずける。地上3階地下1階の堂々たる建物まで数十メートルを歩く。これをバックに記念写真と思ったが、止められた。写真1は、ここが出しているパンフからスキャンしたものである。受付の軍人さんに聞くと、300人が働いているという。昼時にカフェテリアで見ていると、職員に女性も多い。ロビーには、カラー空中写真から作られた、アンマンのオルソフォトらしき巨大なモザイク写真が貼ってある。継ぎ目のほとんど目立たない、上等な作品である。ロビーの隅の方では、さまざまな主題図が展示されており(写真2)、これもおもしろい。ガラスケースの中に、これまで測量に使われてきたという歴代の測量器械が展示されていた。ここの規模はずっと小さいけれど、筑波の国土地理院にある「地図と測量の資料館」と似たような展示である。

写真1 王立ヨルダン地理センターの全景 同所発行のパンフから 写真2 ロビーに掲げてあった成果物の一例


 地形図と空中写真の保管室は地下にある。この部屋に行くまでに、現像室や軍人の詰め所のような部屋の前を通る。保管室の係員とは、何回か通ううちにうち解けたが、部屋のお目付役は毎回替わったような気がする。私たち訪問者を見る目の、ずいぶんゆるい日もあれば、厳しい日もある。係員が誰もいなくなったスキに、この部屋の写真もこっそり撮ったが、誰かに迷惑がかかるといけないので、載せるのは止めておく。
 さて、地形図や写真の値段である。多色刷りの地形図は、日本円で450円、モノクロ空中写真も450円だ。この国の物価からみると、これは極めて高い。外で働くワーカーの日当の半分くらいの値段だと思う。カラー空中写真は3000円、カラー写真のDirect copy CD-ROM は5250円である。しかし、後者の品質は悪い。写真の原板に傷が多くて、同行の大学院生のG君がDEMを作ろうと思ったが使い物にならない。これにはガッカリした。近年撮影されたカラー空中写真は、ドイツの民間会社が請け負ったらしく、みせてもらった標定図は見事な仕事だった。要するに原版の管理が悪いのだろう。いくつかの部署に案内されたが、それぞれのボスはプライドが高く、「最高の技術、最高の品質で提供している」と胸をはって云うのだけれど。

写真3 GIS作業室 友好的だけれど肝心の所は非開示なのだ 写真4 ライカ・ジオシステムズの研修室。このような部屋が2つある

ところで写真3は、GISの作業部屋である。DELLのワークステーションが7台、大きな部屋の壁に沿って配置されている。紅海のリゾート地アカバのGISプロジェクトというのを見せてもらった。良くできた3D動画でアカバの町を見せている。ただ肝心な仕事の説明はなく、結局何を目的としたプロジェクトなのか、私には判らずじまい。ここでは、GISの研修もやっている。私たちの案内役をしてくれた考古学庁の測量技師も、ここでGISの研修をうけたそうだ。その時の先生に2,3回お会いしたが、彼はどうも軍人らしかった。
 アンマンには、ライカ・ジオシステムズのオフィスがあった。バスセンターの近くに看板がみえたので、アポ無しで訪ねたのだが歓待されなかなか話が終わらない。ここでは、イラクなど近隣諸国からの研修を受け入れている(写真4、5)。復興支援で大量の金が入っているようだ。航空券+ホテル+研修ツアーをやっているぞと、商品の宣伝も受けた。ここのエンジニアは極めて優秀らしい。自信があって収入もよいというのが、顔や身なりに現れている。彼らの心配事のひとつは、コピーソフトの蔓延だ。ArcGISやImaginさえもアンマンの下町では手に入るという。ハードウェアキーなど不要。ロシアでコピーされたものらしい。彼らの話が終わらず、結局この日は1泊の出張になってしまった。

写真5 研修室の掲示物。右は研修スケジュールで相当に厳しい 写真6 廃屋の屋上にあった三角点 途方に暮れる我らであった・・

さて、最後の写真はヨルダンの三角点の写真である(写真6)。基準点を探して地方の土地管理事務所へ行った。ここではコンピュータシステム(CADのようなものを操作していた)を使って三角点のデータベースも管理をしている。基準点の管理はRoyal Jordanian Geographic Centerの仕事ではないのだという。日本にも建物の屋上に三角点が乗っていることはある。しかし、この三角点はすごい。廃屋の屋上に印が打ってあるだけだというのだ。うっかり動かしてしまうのが怖くて、印の上に載せた重し代わりのブロックや廃材をどかすことができなかった。ちなみに、探し回った近隣の三角点は、「10年ほど前に家を建てる際に取っ払ったかもしれない」とい住人が云う。図面上の管理はきちんとしているが、現場での保守まで手が回らないようであった。

(2005年8月 長谷川均撮影)

 


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