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VOL.9-10  2007年10月

高知県新荘川付近の景観−1970年代にカワウソが泳いでいた川
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<写真1>河口付近の新荘川 <写真2>沖積平野に広がる須崎市の中心街

高知県の新荘川(写真1)は、四万十川源流のある津野町から流れて須崎(すさき)市(写真2)にて太平洋に注ぐ、二級河川である。かつては全国的には無名の川だったが、ニホンカワウソが最後まで目撃された川として知られるようになった。

<写真3>新荘川中流に隣接する「かわうそ自然公園」の全景(津野町東部) <写真4>カワウソの彫刻(かわうそ自然公園にて)

 ニホンカワウソは、1970年代には既に幻の動物とみなされていが、1974年から1979年にかけて、新荘川付近にてその姿が頻繁に目撃・撮影された(資料1)。しかしその後は、生存の明瞭な証拠は見つかっていないようである。津野町東部の新荘川中流部には「かわうそ自然公園」(写真3)がつくられており、カワウソの彫刻が飾られていた(写真4)。

<写真5>新荘川支流の依包川 <写真6>依包川で魚を狙うアオサギ

 新荘川本流の中・下流部は、交通量の多い地方道と平行しており、河川周辺の陸地にも現れることがあるカワウソにとっては、昨今の環境はきわめて厳しいものといえるだろう。カワウソが最後まで目撃されていたのは、支流の依包川(写真5)との分岐点(新荘川中流)付近の一帯などである(資料1)。写真5に見られるように、車道と平行しているとはいえ、依包川とその周辺の環境は今日でも比較的良好な様子であった。川面には魚影が豊富で、魚を狙うサギ類が数多くみられた(写真6)。

<写真7>新荘川の中流部 <写真8>ツルヨシ1種が圧倒的に繁茂する新荘川中流の河辺植生

 本流の新荘川(写真7)も、水が澄んでいてサギ類がよく見られるという点では、支流の依包川と同様であった。しかし、上述のように少なくとも平行して走る道路の交通量の点で、今日の本流付近の環境はカワウソにとっては厳しいものであろうと推測される。

 また、これは支流についても同様であるが、今日の新荘川では河辺植生においてツルヨシ1種がしばしば異常繁殖することが知られている(資料2、写真8)。ツルヨシは河辺に生育するイネ科の多年草で、地上を匍匐する茎によって荒地でも急速に繁殖する性質をもっている。日本の河川では一般に洪水等により攪乱された土地を中心に生育しているが、高知県の中・小河川では近年ツルヨシの異常繁殖がよくみられるとのことで、新荘川については詳細な調査結果が報告されている(資料2)。原因としては、複数の人為的要因が推測されている。

資料1:「かわうその部屋」(須崎市ホームページ)

http://www.city.susaki.kochi.jp/kawausonoheya/kawausonoheyatop.htm

資料2:石川慎吾・高橋勇夫・石川妙子(2006)ツルヨシ群落の除去が河床の堆積環境と陸生及び水生動植物群集に及ぼす影響.財団法人 河川環境整備財団 河川整備基金助成事業 平成17年度 報告書.www.kasen.or.jp/seibikikin/h18/pdf/rep3-12.pdf

<写真1〜8:2006年10月,磯谷達宏 撮影>


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