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VOL.10-12  2008年12月

伊豆半島南部の海岸草原」

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 自然の海岸草原は美しく、海岸域のランドスケープの中でも貴重な存在である。しかし、海岸草原の多くが各種の工事および人や車による踏みつけのため改変されてきたため、今日では自然状態で生育する海岸草原は希少な存在となっている。半島のようなある一定の地域内の海岸草原は、浜・潟・崖といった海岸地形に応じて異なっているほか、さらに海岸最前線の1年草群落および背後の低木林に隣接する多年草群落などと、さまざまなタイプに分化して生育している。この中で量的に多くもっとも目立つのは、海崖や砂浜に発達する多年草群落である。以下では、海崖や砂浜の多年草群落のうち、伊豆半島南部(下田市から南伊豆町にかけて)の一帯の事例を紹介する。 

写真1 写真2

 写真1に示したのは、崖地形に発達する多年草群落(海岸断崖地風衝草原)の一例である。この写真からも想像できるように、一般に海岸草原には、風による攪乱作用が強く働くほか、塩水飛沫の散布、表層土の薄さ・不安定さ、大きな気温日較差、日照り続き時の水不足といった、さまざまなストレスが厳しく関与する。そのため、海岸草原に生育する植物は、海岸環境に適応進化してきたもののみに種類がほぼ限定されている。

 写真3

写真4

 日本の太平洋沿岸域では、房総半島、伊豆半島、紀伊半島、室戸岬、足摺岬などと、いくつかの半島が南方につき出しているが、おそらく氷期-間氷期における植生変遷の影響を強く受けて、大きな半島ごとに独自の海崖型の多年草群落が成立している(大場 1980)。伊豆半島でみられる海崖多年草群落は、アゼトウナ-ハチジョウススキ群集(写真2;大場 1980)と呼ばれ、秋に黄色い花が目立つキク科アゼトウナ属のアゼトウナ(写真3)が特徴的に生育している。この群集の構成種は、房総半島・三浦半島や伊豆諸島に生育するイソギク-ハチジョウススキ群集と類似しているが、イソギク-ハチジョウススキ群集に生育するキク科アゼトウナ属のワダンを欠き、これを補うように同じ属のアゼトウナが広く生育しているのが特徴である。一部の地域植生誌の海崖多年草群落の記載では伊豆半島においてもワダンが記録されているが、伊豆半島ではワダンは生育しないとされており(杉本 1984)、これは誤認であると推定される。写真4に示したアシタバ(もちろん野生のもの)は、イソギク-ハチジョウススキ群集との共通種の一つである。

 写真5 

写真6 
 伊豆半島の海崖に発達するアゼトウナ-ハチジョウススキ群集には、アゼトウナやアシタバのほかにも、イソギク、ツワブキ、ハチジョウススキなど、さまな海岸植物が生育している。ここではとくに、いかにも海岸植物らしい肉厚な葉をもつボタンボウフウ(写真5)とハマボッス(写真6)の写真を示した。前者はセリ科の多年草、後者はサクラソウ科の二年草(写真6は秋のロゼット葉)である。

 写真7

写真8 
 砂浜タイプの立地では、人為的インパクトをとくに受けやすいため、伊豆半島南部でも良い状態で残されている海岸砂丘型の多年草群落は少ない。写真7は、砂丘にヒガンバナ科のハマオモト(ハマユウ、種子は海水により散布される)が群生している事例である。砂浜のうち、車や人による踏み荒らしが少ない場所では、キク科の多年草で砂丘上を匍匐するハマグルマ(別名ネコノシタ;写真8)が生育しているのがしばしば観察される。

<引用文献>
大場達之(1980)日本の海岸植生類型5-岩石海岸の植物群落(2).海洋と生物9(Vol.2-No.4),299-303.
杉本順一(1984)静岡県植物誌.第一法規出版.


<写真1~8:2000年10月~2003年10月,磯谷達宏 撮影>


                                              

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