手許にあるトマス・クックのヨーロッパ鉄道時刻表に、「編集部の選ぶヨーロッパ景勝ルートトップ10」という特集記事があります。ちなみに1位はドイツのガルミッシュとオーストリアのインスブルックを結ぶルートとなっており、いちおう私はこの10のルートはすべて乗ったことがあるのですが、驚くべきことはその10の路線のうち、半数の5路線はスイスの鉄道風景だということです。
よく知られていることですが、スイスは国土のすべてがアルプス山脈の中にあるにもかかわらず、鉄道路線網が密にあり、しかもどの路線に乗ってもそれなりの車窓風景を楽しめるというのが、まさにスイスらしいところだと言えるでしょう。
今回は、スイス観光の中でも一二の人気を誇るベルナー・オーバーラントの風景を鉄道で巡る旅を紹介します。ベルナー・オーバーラント地方の旅は、この地方の中心地であるインターラーケンから始まります。まずはベルナー・オーバーラント鉄道でグリンデルワルトへ(写真1)。この町はアイガーの麓に位置し、これから向かうアイガー北壁がすぐ先に望まれます(写真2)。時間があれば、ヨーロッパ最長を誇るリフトに乗って標高2168mにあるフィルスト展望台へ登ってみるのもいいでしょう(写真3)。
さて、グリンデルワルトからはヴェンゲルン・アルプ鉄道に乗り換えです。小さな登山電車はアイガー北壁の真下を通りながら、ラックレールと呼ばれる歯車で急坂を登り、ぐんぐんと高度を上げていきます。日本では横川・軽井沢間のアプト式が知られていますが、こちらはリッゲンバッハ式のラックレールが用いられています。
列車は約40分でクライネ・シャイデックへ到着。一刻も早くユングフラウへ行きたいのはやまやまですが、ここではいったん駅を出て、アルプを散策することをお勧めします。天気がよければ、U字谷の斜面に緑のカーペットを敷いたようなアルプの風景の中を歩くのは最高です。みなさんが漠然と考えているスイスのイメージ通りの風景を堪能できるはずです(写真4,5、6)。
再び駅に戻り、クライネ・シャイデックからユングフラウ鉄道でユングフラウヨッホへ向かいます。最初の停車駅アイガーグレッチャー駅は文字通りアイガー氷河の末端に位置する駅で、氷河がすぐそばまで迫っています(写真7)。ここで対向列車を待避交換した後、登山電車はアイガーとメンヒの岸壁をくりぬいたトンネルに入ります。途中アイガー・ヴァントとアイスメアという2つの駅では、アイガー北壁に開けた穴から外の景色が眺められます(写真8)。アイスメア駅を出ると、あとは20分間真っ暗なトンネルの中をひたすら登りつづけるのみ。やがて傾斜がなくなり、トンネルの中で列車が止まると、そこが終点のユングフラウヨッホ駅、ヨーロッパ最高所(3454m)にある駅です。夏だと、クライネシャイデックでは心地よい涼しさといった程度でしたが、プラットフォームに降りた瞬間に空気の冷たさを感じます。ここから岩盤の中の階段を登って(エレベーターもあり)外へ出ると、そこがスフィンクス展望台で、ユングフラウ~メンヒの山容とヨーロッパ最長のアレッチ氷河が一望の下に見渡せる絶景が広がっています(写真9,10)。
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