Back Number をみる

VOL.12-08  2010年8月

日本一のうどんの産地・讃岐平野

※写真が多いので、電話回線での閲覧は時間がかかります。
このページは、1024×768以上の画面でごらんください。画面が小さいと写真の配列位置がこわれます。

※写真や画像の引用に関する問い合わせは、こちらのリンク先ページをご覧下さい。


香川県は,日本一のうどん生産県である.さぬきうどんのルーツは,さぬき生まれの空海が長安に留学(804年~806年)中に麺作りの技法を学び,帰国後空海の甥に当たる智泉大徳が空海から麺作りを伝授されて広まったとされている.2009年のゆでうどんの生産量は38,600トン(全国の約20.5%),生うどんの生産量は8,480トン(同 約28.6%),乾燥うどんの生産量は12,563トン(同 約30.0%)となっており,ともに全国第一位である.写真1は,ニューレオマワールドの「レオマおもちゃ王国」の観覧車から俯瞰した讃岐平野.

※生産量のデータは,農林水産省「米麦加工食品生産動態統計調査年報」を参照.

1962年に17,700haあった香川県における小麦の作付面積は,1973年に326haまで急減した.その後国や県,農業団体等による麦作奨励金などの振興政策が実施されたこともあって1987年の4,130haまで増加したが,1900年代に入ると再び減少傾向となり,1996年には740haとなった.近年は,食料・農業・農村基本法の下で国際競争力のある産地確立,水田等の有効活用,需要即応型の生産流通体制の確立などの側面から麦作の奨励が改めてなされ,2009の作付面積は1,520haとなっている.しかし,香川県の一戸あたりの経営耕地面積は55.9aであり(2005年),小麦の作付規模も小規模である.写真2の左奥にみえるのは飯野山(讃岐富士).

※作付面積のデータは,香川県農政水産部農業生産流通課公表資料を参照.経営耕地面積は,農林水産省「2005年農林業センサス」を参照.

写真1.うどんといえばさぬきうどん

写真2.讃岐平野にひろがる小麦畑

香川県内に立地するうどん店は,2006年現在657店ある(総務省『事業所・企業統計』参照)とされているが,TJ kagawa事業部が編集する『さぬきうどん全店制覇攻略本2010-11年版』には700軒を超えるうどん店が紹介されている.1960年代半ば頃から香川県内にうどんの専門店が登場し,その後セルフサービスのうどん店も出現した.セルフ店とは,麺の玉数などを注文し(自分でうどん玉を温める店もある),天ぷらや薬味などを自分の好みでのせて,食べる前に勘定する店をいう.

さぬきうどんを楽しめる店舗の検索HPもある⇒http://www.e-sanuki.com/udon/map.html

 

私が入ったうどん店もセルフ店(写真4).トッピングをのせておでんとともにいただきます!牛すじがあるのも関西風.

写真3.多くのうどん店が立地

写真4.セルフうどん店では自分好みのうどんで舌鼓

県内のうどん店のなかには小規模なお店も多いようだ.写真5は丸亀市にある「なかむら」.裏の畑でねぎをとってきて自分で刻むというスタイルが話題となったうどん店(今はねぎが店内に用意されているそうです.私が訪ねた日は休業日で,この点を確認できず・・・/店舗情報はJTBパブリッシング編集製作本部 関西編集部『るるぶ情報誌 香川 高松琴平小豆島 ‘10~’11』p.9).

近年では,関東地方にもさぬきうどんのチェーン店が出店するなど,新たな「さぬきうどんブーム」が生じているが,一方で香川県におけるうどん原料としての小麦供給量は極めて限られている.その背景の一つが,麦の収益性の低さにある.そこで,香川県では「さぬきうどん」の付加価値を高めるとともに,県内小麦の生産振興を促すことを目的に,1991年から香川県農業試験場で「さぬきうどん」用の小麦品種の育成に取り組んだ.その結果として登場した「さぬきの夢2000」は,2000年に登録出願されたさぬきうどん専用小麦の新品種である.2001年に23haだった「さぬきの夢2000」の作付面積は,2009年に1,513haへと拡大している.

写真5.民家の一角にあるうどん店

写真6.さぬきうどん用の小麦品種も開発

綾川町にあるうどん会館の直売所(写真7)では,「さぬきの夢2000」をはじめこれまでのさぬきうどんを支えてきたASW(オーストラリア・スタンダード・ホワイト)などが販売されている.

さぬきうどんアイスも人気とのこと(写真8).3つの味が楽しめる.一つは「さっぱりうどんアイス」(一般向け)で,これは「甘さを大幅にカットし,だしのコクで甘みを出している」というアイス.もう二つは「純こってりうどんアイス」と「超こってりうどんアイス」で両方ともチャレンジャー向けのアイス.うどんだしの「いりこ」と「かつお」風味が強調されている.アイスのなかには凍らせたうどんの小片が入っており,つぶつぶ感を楽しめる.

写真7.直売所で販売されるさぬきうどん

写真8.さぬきうどんアイスも人気

うどん打ちの体験もできる(写真9).90分ほどの「授業時間」のなかでうどん粉をこねたり,ふんだりしながらうどんを打っていきます.出来上がったうどんは,試食もできます.おみやげで粉,塩,麺棒などうどんづくりセットがもらえるところも・・・.うどん打ちを体験したいという外国からのお客さんも増えているそうです.

2006年に公開された「UDON」(本広克行監督).この映画の誕生の背景には,1980年代後半からTJ kagawaに連載された「ゲリラうどん通ごっこ」(その後,全5巻におよぶさぬきガイドブック『恐るべきさぬきうどん』として単行本化)があった.「讃岐うどん」wikipediaには,那須幹博(2007):香川県民も意外と知らない「さぬきうどん」.調査月報(香川経済研究所)248,pp.11-21を参考に,過去の四次におよぶ「讃岐うどんブーム」を紹介している.1995年の第三次ブームには,上記のガイドブックやマスコミへの露出によって県内のうどん店をめぐる観光客が増加したと指摘している. 写真10は,ニューレオマワールドに「UDON」のロケセット(松井製麺所)が移設展示されているもの.

写真9.うどん打ち体験もできます!

写真10.さぬきうどんが映画にも登場

讃岐平野は日本の中でも少雨の地域である.それゆえ古くからため池灌漑が発達してきた.満濃池は日本最大のため池であり,701年~704年に国守・道守朝臣が築いたとされている.821年に空海が日本初のアーチ型堤防のため池に改修したとされるが,その後幾重にもおよぶ修復工事を重ね,現在は,堤高32.3m,貯水量1,540万㎥,満水面周囲約20km,水面積138.5ha,灌漑面積約4,600haとなっている(写真11).一方,香川用水は,吉野川総合開発事業の一環として建設され,1974年に総工費約3,200億円(内,香川県負担額は約1,154億円)をかけて完成した(写真12).この用水の完成によって県内の渇水問題は軽減されたが,1994年の大渇水発生以降,新たな渇水対策の必要性や隣県との水利権調整の問題が生じるなどしている.

写真11・12 讃岐平野の農業や生活を支える満濃池と香川用水

(写真は2010年3月宮地忠幸撮影)


                                              

今月の地理写真バックナンバー