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VOL.13-05  2011年05月

「高知県南東部奈半利町付近のランドスケープ-植生景観を中心に-

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3年生の野外実習で高知県南東部の奈半利町(なはりちょう)とその周辺地域を訪れる機会があったので、植生を中心にこの付近のランドスケープの一端を紹介したい。

写真1 田野町から奈半利町を望む

写真2 奈半利町の東浜付近

 奈半利町は、阪神タイガースのキャンプで有名な安芸市と室戸岬との中間に位置しており、太平洋に注ぐ奈半利川下流の南東側の一帯を占めている。写真1は、奈半利川下流の北西側を占める田野町(手前)から撮影したもので、遠く写真上部に奈半利町の中心街が広がっている。写真では奈半利川が中央部を左から右に流れ、太平洋に注いでいる。写真2は、奈半利町東浜の堤防上から山側を望んだ様子である。港湾の奥には、日本の河口付近の町でよく見られるように、中心街が沖積平野上に広がっている。
写真3 奈半利町東浜から室戸岬方面を望む 写真4 ごめん・なはり線「のいち駅」のキャラクター
 写真3は、同じく奈半利町の東浜から室戸岬方面を望んだ様子である。室戸岬付近はよく発達した海成段丘が見られることで有名であるが、写真3でも少なくとも1段の海成段丘が、きれいな形で室戸岬方面にかけて連なっている様子がみられる。手前の海岸草原は造成後間もない土地に成立した二次草原であり、ピンクの花をつけたノゲイトウをはじめとする1年生の外来植物が目立っている。海岸草原における外来植物の増加は全国的に問題視されているが、このあたりの海岸草原も例外ではなく、コマツヨイグサをはじめとする多くの外来種が観察された。
 奈半利町には、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点の奈半利駅がある。この、ごめん・なはり線の各駅には、沿線出身でアンパンマンの作者として知られる、やなせたかし氏が創作したキャラクターがあり、地域のイメージづくりに一役買っている。写真4は、このようなキャラクターの一例で、高知龍馬空港に近い「のいち駅」(香南市)のものである。
写真5 民家とその裏山のシイ二次林(北川村) 写真6 シイ二次林の断面
 さて、植生景観として冬も温暖なこの地域を代表するのは、里山の照葉二次林(冬も緑の葉をもつ雑木林)である(写真5)。30年ほど前まではマツが多かったこの地域の里山も、今日ではマツ枯れの結果、多くが広葉樹林となっている。その代表的なタイプが、写真5のような民家の裏山で見られるシイ二次林である(奈半利町の北に隣接する北川村で撮影)。シイ林はよく閉じた平滑な林冠をもつので、慣れると遠目に見てもすぐに判別できる。写真6は、シイ二次林の群落断面の様子である(奈半利町)。
写真7 北川村菖蒲の神社林 写真8 神社林で目立ったミサオノキ
 自然の豊かな高知県といえども残存する照葉自然林は少ないが、その断片は神社林などとして残されてきた。写真7は、北川村菖蒲の神社に残された自然林(鎮守の森)の例である。優占種は付近の二次林と同じくシイノキであったが、二次林に多いアラカシは少なく、逆に二次林ではあまり見られないミサオノキ(写真8)が数多く生育していた。写真7を見ると関東地方あたりの神社林と大差ないように見えるかもしれないが、南国土佐まで来ると種組成はだいぶ異なっており、ミサオノキのような亜熱帯系の植物が数多く生育している。ミサオノキは、熱帯性の種が多いアカネ科の低木で、葉や実のつき方は同じアカネ科のコーヒーノキとよく似ている(写真8では実は見られない)。
写真9 礫浜で目立つハマアザミ群落 写真10 海岸で目立つダンチク群落

 奈半利町付近の海岸は礫浜が多く、その優占種としてよく目立っていたのが、日本の海岸に広く分布するハマアザミである(写真9)。そのほか、海岸草原とその背後の道路や森林との境界付近では、イネ科のヨシを豪壮にしたような形のダンチクの群落(高さ3~4m)が顕著に見られた(写真10)。ダンチク群落は、四国や九州の海岸で目立つ南方系の植物群落である。

写真11 奈半利川上流の水際に生育するキシツツジ群落 写真12  廃校を活用した生活体験学校(奈半利町米ヶ岡)
 奈半利川の中下流部の河畔ではツルヨシやアキグミの群落が広く成立していたが、河川の横断面形が異なる上流部まで行くと、増水時の水際に沿ってキシツツジの群落が見られた(写真11:北川村掘ケ生付近)。キシツツジは西日本の河川上流部の河岸に生育するツツジ科の植物で、花期には岸辺に沿って淡紅紫色に染まる美しいランドスケープをつくることが知られている。最後の写真12にある魅力的な建物は、奈半利町米ヶ岡にある町立の生活体験学校である。廃止となった小学校の分校を活用したこの施設は、地域の子供達の生活体験学習の場として活用されているとのことである。
<写真1~12:2011年10月26日~29日,磯谷達宏撮影>
                                           

                                              

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