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VOL.14-04  2012年04月

徳島県上勝町の「持続可能な地域社会づくり」への挑戦

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  上勝町は,徳島市の南西約40kmに位置する山村です(写真1).町域面積の約9割は山林で占められています.2010年現在の人口は1,964人です.人口は、高度経済成長が始まる1955年から約7割も減少しています.とくに1965年から1980年頃にかけて,人口減少が急速に進みました.高齢化率は約49.5%(2010年)です.四国のなかで最も人口が少なく,最も高齢化が進んだ町といわれています(上勝町パンフレットより).
 上勝町の名前が全国に知られるようになったのは,「葉っぱビジネス」と呼ばれる「つまもの」(日本料理を美しく彩る季節の葉や花,山菜などのこと:株式会社いろどりHPによる)を販売する農業ビジネスが成長したことによります.「葉っぱビジネス」は,1981年の局地的な大寒波によって当時の町農業の基幹的農作物であったみかんに大きな影響が出たことを契機としています.みかんの不作の後,野菜などの多品目少量産地の形成へ向けた努力を続けていた1986年に,農協職員であった横石知二氏(現在の株式会社いろどりの代表取締役社長)が大阪の「がんこ寿司」でヒントを得て「彩」農業を事業として発案し,翌87年から本格的に「葉っぱビジネス」がスタートしました(写真2).

写真1 四国山地のなかにある上勝町

写真2 「葉っぱ」がこの町の資源になっています

写真3 株式会社いろどりの代表取締役社長 横石知二氏

写真4 「葉っぱ」の生産の担い手はおばあちゃんたち

 横石氏は,高齢化が進む上勝町において高齢者の女性ができる仕事はないかと模索を続けるなか,既述した大阪のお寿司屋さんで若い女性が料理に添えられたつまものを大事にしまう姿をみて感動し,「環境の違いをもっと活かすことが大事」と上勝町にたくさんある「葉っぱ」(彩)の価値を「発見」したのでした.株式会社いろどりは,1999年に設立された第三セクター(上勝町が資本金の7割を出資)です.第三セクターゆえに,町内の資源だけでできる事業,町のためになる事業を進めています(写真3).

 現在,「葉っぱ」の生産者は,女性や高齢者が中心となっています.平均年齢は70歳,生産者は200名ほどということでした.「葉っぱ」は重量が軽い.さらに,商品としての「葉っぱ」とするために,天然の葉などを綺麗に切り揃えたりする必要があるのですが,こうした細かい作業は,とくに女性に適性のある作業なのだそうです.「葉っぱビジネス」を支えているのはおばあちゃんたちなのです(写真4).

 写真5 株式会社いろどりのオフィス

写真6 JA東とくしま上勝支所に出荷された「葉っぱ」

 私が株式会社いろどりのオフィスを訪問した際に感じたことが,若い社員の方が多いという点です.株式会社いろどりでは,各種のセミナーや視察,インターンシップ研修生の受け入れなどを行っています.株式会社いろどりの社員は,すべてⅠターン(上勝町への新規移住者)やUターンで上勝に戻ってきた方だそうです.第三セクターの企業として,町の雇用効果にも貢献しています(写真5).
 「葉っぱ」はJAに集荷され,全国に出荷されていきます.なかでも東京を中心とした東日本方面が全体の出荷量の8割を占めているそうです.そういえば,1月に見学した築地市場においても「彩」マークの付いた南天がありました.年間の取扱品目は300品目を超え,年間の販売額も2億6,000万円ほどに増えてきたそうです.北村(2009)によれば,出荷は前売りと注文の2つの方式で行われており,とくに後者の注文は,全国の市場からJAに入った注文を,生産者に11時までにFax.で一斉送信し,先着順で発注した生産者が13時までにJA上勝支所に出荷するという仕組みが構築されているそうです.生産者からの発注は通常5分以内で完了するそうで,それだけ生産者の出荷意欲が高いことを伺えます(写真6).


写真7 きれいにパッキングされたもみじから示唆されること 写真8 木質バイオマスエネルギーの活用

 「葉っぱビジネス」は,山村の活性化モデルとしてだけではなく,ビジネスのあり方そのものに大きな示唆を与えているように思えます.横石(2007)の書籍の副題には,「過疎の町,どん底からの再生」とあります.「葉っぱビジネス」は,当初から農家の方々にすぐ受け入れられたわけではなかったようです.しかし,女性や高齢者のもつ良さを引き出し,「いろどりネットワークシステム」と呼ばれる市場の需要予測や出荷調整指示,売り上げ状況や売り上げ順位の把握ができる情報端末が整備されたことで,生産者間に競争心が生み出され,生産の効率化や品質の高い商品の出荷方法など生産者自らが考えて「葉っぱビジネス」に関わるようになったことで,全国的にも注目される取り組みへと発展した(「どん底からの再生」と評価できるようになった)といえそうです.横石氏は,「ビジネス」成功の3つのポイント(①人それぞれに居場所と出番をつくること,②頑張ったことを評価してあげること,③からぶりをさせずに自信をつけさせてあげること)を支えるプロデューサーの存在を重視していますが,この点もビジネス雑誌(ニューズウィークやプレジデントなど)やテレビ(カンブリア宮殿など)に注目されるようになった背景となっているのではないでしょうか.上勝町や横石氏がマス・メディアにおいて取り上げられるパブリシティ効果も,上勝町の活性化に大きなものがあるといえるでしょう(写真7).

 上勝町のまちづくりは,「葉っぱビジネス」だけではありません.町の「二酸化炭素排出促成対策事業」の下で実施されている木質チップボイラーの導入もその一つです.写真8の木質チップボイラーは月ヶ谷温泉に設置されたもので,二酸化炭素排出抑制による地球温暖化防止,林業の活性化,雇用の創出等による地域経済の活性化が期待されています(写真8).

写真9 ごみのリサイクル事業を通した持続可能な地域社会づくり 写真10 ごみのリサイクル事業を通した持続可能な地域社会づくり

 上勝ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)事業も注目したい取り組みです(写真9).「日比ヶ谷ゴミステーション」において,毎日29の分別回収が行われており(毎週日曜日にさらに5品目が分別回収),回収されたごみは再利用,再資源化され,隣接するショップ(「くるくるショップ」や「くるくる工房」)等でリサイクル商品が販売されています(写真10).リサイクル率は2009年度で56.0%(徳島県上勝町,2011)となっています.上勝町ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)宣言,同行動宣言が2003年に公表され,全国的にも先進的な取り組みとして注目されています(北村,2009)

参考文献・資料
北村修二(2009):『産業・地域づくりと地域政策』大学教育出版,pp.217-229
横石知二(2007):『そうだ,葉っぱを売ろう!』ソフトバンククリエイティブ,216p
徳島県上勝町(2011):『いっきゅうと彩の里・かみかつ』上勝町役場産業課.

徳島県上勝町:人が主役のまち 上勝町 町の取り組みについて(パンフレット)

写真は2011年10月宮地撮影

                                           

                                              

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