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VOL.14-12  2012年12月

  「多摩川源流の村-小菅村と丹波山村の地域振興-

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 国士舘大学世田谷キャンパスのある世田谷区の西端を多摩川が流れています.多摩川は全長138km,流域面積1,242k㎡(国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)の一級河川です.今回は,この多摩川の源流部に位置する山梨県北都留郡小菅村と丹波山村の地域振興の取り組みを紹介します.
   

写真1 小菅村の中心集落の遠景

    写真2 多摩川支流の小菅川の源流部に広がる「水源林」
 奥多摩の山々に囲まれた小菅村の中心集落.手前には地元特産のそばの畑が広がっています.山林の緑がまぶしく,空気がおいしい奥多摩の山村です.小菅村の人口は816人,高齢人口比率は40.9%(2010年「国勢調査」結果による)の山村です.       多摩川の上流部には,東京都が管理している21,628haもの水道水源林が広がっています.このうち1,622haが小菅村の村域に含まれています.水道水源林は,水資源の涵養,土砂や土壌流出防止,地球温暖化防止など多面的な役割を果たしているといわれています.※数値は,2001年現在のもの.
 
   

写真3 「多摩川水源森林隊」によってきれいに管理された森林

   

写真4 廃校に設置されている多摩川源流大学の事務所

 東京都水道局は,多摩川上流域の森林を適切に保全・管理することを目的に,2002年に「多摩川水源森林隊」を発足させて,ボランティアを募り,植栽,下草刈り,間伐,枝打ちなどの作業を続けています.
 
     人口減少と高齢化が進む小菅村では,源流地域独自の地域づくりを目指して2001年に多摩川源流研究所が,2006年から東京農業大学による多摩川源流大学が開設されました.それぞれ源流部の動植物や山村の生活,文化,産業の調査や,地域住民との交流を通して山村の存在価値を学ぶ取り組みが続けられています.さらに,2009年にはNPO法人多摩源流こすげが立ち上がり,公募で採用された4人の若手移住者が,小菅村,多摩川源流研究所,多摩川源流大学と連携しながら,年間約2,000人の交流人口を受け入れ,地域に新しい「風」を吹き込んでいます.
   
 写真5 急峻な傾斜地に家屋と農地が展開する丹波山村     

写真6 無住化した集落

 小菅村から一つ峠を越えたところに丹波山村があります.丹波山村は,人口685人で高齢化人口比率が46.5%(2010年「国勢調査」結果による)の山村です.急傾斜の傾斜地に小規模な農地と家屋が広がっています.
 
     「限界集落」問題がしばしば指摘されていますが,丹波山村の中にはすでに無住化してしまった集落がいくつかあります.私が写真の集落を巡った時には,複数のサルの群れに(車が)囲まれて怖い思いをしました.
   
写真7 小規模な農地で続く自給的農業
    写真8 在来種を活用した農業振興
 丹波山村の農業は,自給的性格の強い農業です.2010年の販売農家は10戸にすぎず,総農家の平均耕地面積は12a(2005年)という小規模なものです.じゃがいも,わさび,そば,こんにゃく,とうもろこし,きゅうりなどが特産です.丹波山村(の農業)は1960年代のエネルギー革命,1970年代のこんにゃく価格の暴落の影響を受けて,担い手の減少,経営耕地面積の縮小を余儀なくされてきました.       丹波山村では地域農業の存続を目的に,2009年から在来種を活用した農業振興を始めました.「つやいも」「ケネベック」「落合いも」などの在来種を「ジャガイモ保存会」で保存,育種しながら,特色ある農業の存続を目指しています.この取り組みは,2012年になると49名,5団体が参加する取り組みへと拡大してきています.また,在来種を活用した農業振興は,きゅうりや大豆などにも広がりをみせています.
   
写真9  獣害被害を防止するために設置された電柵
    写真10 ジビエ料理で地域振興
 しかし,最近の山村農業は,獣害との闘いにも対応を求められています.急峻な畑は,山梨県の補助事業によって高さ3mほどの電柵で「囲まれ」ています.農家の皆さんは,電柵の「中」で小規模な農業を続けています.        捕獲した獣を活用する手立てがないか,,,ということで考えついたのが「ジビエ料理」の開発でした.ジビエとは,「狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味する言葉で、ヨーロッパでは貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化」(日本ジビエ振興協議会HPより転載)のことを指しています.丹波山村では,鹿肉の加工品が開発され,それを活用した料理のメニューが創作されています.
写真11 鹿肉ソーセージ 美味です
    写真12 企業のCSR活動の一環で取り組まれている森林管理
  さっそく私も鹿肉ソーセージを購入.ややたんぱくな味ですが,まずまず美味しかったです!      丹波山村には,企業がCSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)活動の一環として,森林の保全管理や農業支援活動などに取り組む数社の民間企業の社員が,定期的に来村しているとのことでした. 
(※写真は,2012年9月に宮地忠幸撮影.)
                                           

                                              

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