VOL.15-10 2013年10月
「多摩川梨の産地・稲城」
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<写真1> 稲城市に広がる多摩丘陵の里山 |
<写真2> 多摩丘陵(南山)からみた稲城のまち 稲城市の特産品に梨がある。写真2は、多摩丘陵(南山)から北方を撮影した写真である。多摩川の沖積地に住宅地が広がり、その中に梨園が点在していることがわかる。住宅地のなかに残る梨園は,4月に白い可憐な花を咲かせ,8月から10月にかけて収穫時期を迎える。「第三次稲城市農業基本計画」(2011年策定)では,稲城市民が地域の農業や農地保全に肯定的な評価を行っていることが示されている。 ※稲城市ホームページを参照:http://www.city.inagi.tokyo.jp/shisei/keikaku_hokoku/keikaku/daisanjiinagishinougyoukihonkei.html |
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<写真3> 稲城市に広がる梨園 2000年現在の梨の栽培面積は34haであり,多摩川梨の最大の生産地となっている。なかでも1990年に生産者組織として結成された「稲城の梨友の会」は,高品質梨の生産と販売へ向けた努力を続けている。減農薬栽培への取り組みをはじめ,厳しい出荷品検査の実施,販売促進事業の展開等が,後述するJAの積極的な広報活動の効果と相まって,「稲城梨ブランド」を確立することにつながった。 |
<写真4> 稲城市における梨の主力品種「稲城」 稲城市で栽培される梨の品種は,大玉(1玉650g~800g)の品種である「稲城」(早生種)と「新高」(晩生種)を中心としている。梨の販売農家は100戸(2012年)であり,その約半分の農家はぶどう(「高尾ぶどう」)も栽培する複合経営農家である。これら果実の販売は,JA東京みなみ稲城支店の販売促進活動を通して,都内の高級果実店からも引き合いが強くなるなど,1990年代以降に新展開をみせてきた。とくに「稲城」は果肉が柔らかく,高い糖度でみずみずしい食味が高い評価を得ている。贈答用の品種として「幻の梨」とも評されるようになった。 |
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<写真5> 市内に点在する農産物直売所 市内には,農産物直売所が80軒以上立地している。1950年代後半以降,もぎとり農園や直売所が開設された。1964年の読売ランド(現、よみうりランド)の開設は,もぎとり農園や直売所の開設を促すことにもなった。しかし,1980年代以降になると,宅配による全国発送による販売が大半を占めるように変化した。 |
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。 | <写真6> 稲城の梨栽培の起源を伝える「多摩川梨発祥之地」の碑 稲城市における梨栽培の起源は,元禄年間の代官であった増岡平右衛門と川島左次右衛門が,山城国から「淡雪」の苗木を持ち帰り植栽したという説がもっとも有力である。写真は「清玉園」に残る「多摩川梨発祥乃地」の碑である。本格的な梨栽培の拡大は,明治期以降であり,昭和初期には100haを超える栽培面積へと拡大した。 |
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<写真8> 新鶴川街道沿いに開発された集合住宅と残存する梨園 稲城市では,2007年に旧鶴川街道の南に上下二車線道路の新たな鶴川街道が開通した。この道路は,南多摩尾根幹線道路の一部であり,首都高速4号線から稲城大橋を経て,多摩丘陵の尾根幹線から国道16号線へ抜ける(いずれは圏央道に接続する計画もある)広域幹線道路でもある。この新道の建設と開通によって農地は減少した。 |
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<写真7> 病害虫予防のため梨園に掲げられた看板 住宅地に囲まれたなかで農地が点在する都市農業地域では,生産者にとって作業の省力化を阻害するだけでなく,周辺住民の「農」への理解と協力なしに生産環境を保つことはできない。写真7のように,市内の農地周辺には,特産品の梨の生産環境を守るための環境づくりに地域住民の協力を呼びかける看板が掲げられている。 |
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<写真9> 新たに進展する住宅地開発 さらに,稲城市南部の丘陵地部分において南山東部土地区画整理事業が始まった。2009年に起工式が行われてから,丘陵地部分での区画整理と宅地開発,区画整理事業施行地区への取り付け道路の建設が進んでいる。このような新たな開発事業の展開が,農地(果樹園)から都市的土地利用への転用を促進させている。 |
<写真10> 稲城市内の洋菓子店に並ぶ梨の加工品 縮小傾向にある稲城市の梨栽培ではあるが,現状の生産力のなかで新たな主体的な取り組みも模索されている。その一つが加工品の開発である。2007年以降,梨を活用したアイスクリーム,ワイン,ジュース,ケーキなどが,地元の洋菓子店等との連携を生みながら進められてきた(写真10)。これらの取り組みは、毎年少なからず生み出される「すそもの」の利活用を目的としている。梨の加工品は,稲城市の新しい特産品として人気を集め始めている。 |
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※ご関心のある方は、宮地忠幸(2013):多摩川梨産地のいま-稲城の梨は「幻の梨」―.地理58-10,pp.60-68もご参照ください。 写真1は2013年6月,写真2~10は2013年8月に宮地忠幸が撮影。 |