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VOL.16-01  2014年01月

  2013年10月の土石流災害前における伊豆大島元町神達付近のランドスケープ

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 2013年10月15日から16日にかけて通過した台風26号にともない、伊豆大島では24時間雨量824mmというとてつもない量の降水が観測された。これにともない、16日の未明に元町の東南東側の山腹から水分の多い大規模な土石流が発生して神達(かんだち)地区を含む元町南部の一帯に流下し、付近は多数の犠牲者をともなう甚大な被害を受けた。筆者は偶然、この年の4月下旬に神達付近を訪れ、付近の様子を撮影していた。土石流災害の前後の様子を比較する上での資料的価値があるかと思われるので、以下にその画像を示す。  

<写真1> 神達地区より相模灘と伊豆半島を望む
 

<写真2> 起伏の少ない神達地区

写真1は、神達地区から相模灘越しに伊豆半島を望んだ様子である。大島・伊豆半島間の実際の距離は、一般的なイメージよりもやや近いようである。写真2は、緩やかな台地状の地形が卓越する神達地区の様子である。画面右下に移っている車道は、大きな被害を受けた御神火(ごじんか)スカイラインへと続く。

 
<写真3> 製塩所「海の精」元町工場 <写真4> 平坦な地形上に生育する常緑広葉二次林
 

神達地区の製塩工場(写真3)は、施設の一部が土石流の被害を受けたものの、社員と工場の主要施設は無事だったとのことである。神達地区で緩やかな台地状の地形が卓越しているのは、この一帯が1338年頃の火山噴出物によって覆われているためである。写真4は、このような平坦な地形上に生育するシロダモの多い常緑広葉二次林の様子である。

 
<写真5> 大規模崩壊があった山腹斜面:その1 <写真6> 大規模崩壊があった山腹斜面:その2
  土石流災害直後に空中から撮影された写真を見ると、神達地区東側の御神火スカイライン沿いの斜面がきわめて広い範囲にわたって崩壊しているのに対し、それよりも南寄りに位置する斜面では大規模な崩壊が少なく崩壊は谷筋を中心に生じている様子が認められる。写真5~7は崩壊前の前者の様子、写真8~9は同じく後者の様子である。写真5の画面中央から左側の遠景にみられる横筋が御神火スカイラインで、この写真5の一部にクローズアップしたのが写真6と7である。大きな被害をもたらした土石流は、写真6・7の付近で発生した大規模な表層崩壊に起因しているものとみられる。崩壊がきわめて広範に発生したこの一帯は、1338年頃の火山噴出物の堆積面であり、写真6・7でも確認できるように、侵食谷がまだあまり発達していない斜面である。付近で優占する植生は、常緑・夏緑広葉混交の二次林ある。
 <写真7> 大規模崩壊があった山腹斜面:その3  <写真8> 谷筋を中心に崩壊した山腹斜面:その1
   
<写真9>  谷筋を中心に崩壊した山腹斜面:その2  <写真10> 谷筋を中心に崩壊した山腹斜面:その3

いっぽう、写真8は神達地区の南側に位置する沢(伊豆大島火山博物館がある流域)を中心とした景観である。谷筋を中心に崩壊が発生したこの一帯は、1338年頃の火山噴出物には覆われなかった斜面であり、より古い時代に堆積した火山体に明瞭な侵食谷が刻まれた斜面である。そして、この写真8の沢の上流部にクローズアップしたのが、写真9と10である。この付近でも谷筋を中心に崩壊は発生したが、侵食谷に削り残された尾根型の斜面の多くは崩壊しなかったので、結果として崩壊の規模は写真5~7の一帯よりも小さかったことになる。なお、写真9・10の尾根筋にみられるこんもりと茂った森は、自然林に近い常緑広葉のスダジイ林である。

<写真1~10:2013年4月28日,磯谷達宏 撮影>

                                          

                                              

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