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VOL.16-09  2014年09月

  伊豆半島のシキミ畑


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写真1 この土地利用は何でしょうか? 写真2 写真1撮影場所付近の掲示版

写真1をご覧ください。この土地利用は何でしょうか?単なる伐採跡地ではありません。写真の場所だけでなく、地形図に描けるくらいの面積で広がっている積極的な土地利用の一形態です。場所は、写真2に示した掲示板(伊豆半島北西部)の付近、標高600m前後の一帯です。地理に相当詳しい方にも難問なのではないでしょうか?

写真3 実をつけたシキミ 写真4 シキミ畑に生育するシキミの個体

正解は、タイトルにある通りですが、シキミ畑です。シキミは、日本に数多く自生する、マツブサ科(最近シキミ科から改められた)の常緑広葉小高木です(写真3、4)。いわゆる照葉樹の一種で、日本では古来より、墓前に備えるなど仏事に利用されてきました。独特の香気があるほか、実は有毒植物なので、墓前に備えたときに獣類に荒らされにくいというメリットもあるようです。

写真5 枝葉の茂ったシキミ畑 写真6 マツ林下に生育する自然林構成樹種のアカガシ(左中央)とシキミ(右手前の2個体)

写真5は、枝葉がある程度茂った状態のシキミ畑です。仏事に使われる需要があるため、シキミは寺町の生花店などでよく販売されています。そのため、写真5のようなシキミ畑が、照葉樹林帯のあちこちに成立しているわけです。シキミ畑は、桑畑や茶畑と同様に樹木畑の1タイプですが、一般的な地図記号として「シキミ畑」はありませんので、この土地利用を図化する必要がある場合は、「その他の樹木畑」となります。伊豆半島ではこの他、桜餅などに使う桜の葉を生産するサクラ畑(オオシマザクラ畑)もよく見られます。

写真6は、このシキミ畑に隣接した松林で撮影したものです。林内には、この地域の自然林で優勢なアカガシやシキミがよく生育していました。このことからもわかるように、伊豆半島の標高600m前後の一帯は、熱帯から続く常緑広葉樹林帯の分布限界域にあたるカシ林域です。つまり、この地域において元来アカガシなどと一緒に旺盛に生育していたシキミが、ここでは刈り残されたり補植されたりして、シキミ畑として維持されていたわけです。元来の生育域ですから、シキミは大変成長が良い様子でした。有毒なためシカ等の獣害にも強い樹種なので、獣害の多い昨今においては、シキミ畑は比較的維持しやすい樹木畑ということになります。

写真7 枝葉を刈られた後のシキミ畑 写真8 刈り取り後の個体

写真7は、枝葉を刈り取られてから間もないシキミ畑の様子です。常緑樹ですから、落葉樹の桑ほど成長が速くはありませんが、次々に芽吹いた葉が成長していく様子が観察されました(写真8)。

<写真1~8:2014年8月19日,磯谷達宏 撮影>
                                          

                                              

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