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VOL.18-02  2016年02月

  「世界遺産の昔と今:パムッカレの石灰棚

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  人も場所も、久しぶりに再会すると、その大きな変化に時の流れを実感することがよくあります。世の中は常に動いているわけですから、当然といえば当然なのですが。パムッカレといえばトルコを代表する観光地の一つで、その名の通り「綿のように」真っ白な石灰棚の景観(石灰華段丘)で有名なところです。1988年に「ヒエラポリスとパムッカレ」の名称で世界遺産(複合遺産)にも登録されています。昨年、25年ぶりにこのパムッカレを再訪する機会があり、初めてこれを見たときの感動を思い出したのと同時に、四半世紀という時の重さも痛感しました。
写真1 パムッカレ中央部(25年前) 写真2 パムッカレ中央部(現在)
写真1は、パムッカレの中心付近の25年前の写真です。いちばん石灰華の段丘が発達したところで、もっとも絵になるため、観光客が集中しています。この当時、日本ではまだあまり知られていなかったので、日本人観光客はほとんどいませんでしたが、地元やヨーロッパからの観光客が思い思いに土足で入り込み、石灰棚に溜まった温泉の中で水浴びなどをしています。石灰の色が何となく泥で黄ばんでいるのもわかります。写真2は25年後の写真。誰もいないのは、その後観光客の立ち入りが一切禁止されたからです。
 
写真3 パムッカレ上部の展望所(25年前)  写真4 パムッカレ上部の展望所(現在)
写真3は、上記2枚の写真を撮った展望所付近の25年前での写真です。この頃すでに観光圧力によって景観がかなり痛んでいたことがわかりますが、25年後の写真4を見ると、かなり改変され、修復(あるいは人工的に造成?)されたことが予想されます。
 
写真5 北方から見た石灰棚の遠景(25年前)   写真6 北方から見た石灰棚の遠景(現在)
写真5は北方から見たパムッカレの遠景ですが、こちらも現在の姿(写真6)と比べると、ずいぶんと白くなっているのがわかりますね。
 
写真7 水を抜かれて養生中の石灰棚(現在) 写真8 石灰棚の夜景(25年前)
 これらは、観光圧力による景観破壊が進んだため、ユネスコからの勧告もあって1997年頃から観光客の石灰棚への立ち入りを禁止し、10年以上かけて石灰華を(人工的に?)育てたことによるものです。現在では石灰棚に流下する石灰分を含んだ温泉の湯量は管理され、石灰棚に湯を張って石灰分を沈殿させては湯を止めて効率よく固結させているため、実際には石灰棚の中にあるべき水が入っていないこともよくあります(写真7)。ちなみに写真7に写っている大きな池は近年造られた観光用のもので、以前はただの原っぱでした。また、よく見ると写真1の上方にホテルが写っているのですが(写真8の夜景だとはっきりわかる)、石灰棚の直上に建てられた見晴らし抜群のこの温泉ホテルは、その後撤去されています。
 
                       
写真9 25年前の自然状態であった石灰棚
 このような、景観の保全と観光客へのサービスのいずれを重視するかは、世界遺産に指定されるような有名観光地ではどこでも問題になっていることですし、美しい景観を保存するためには様々な規制を設けざるを得ないのが現実だとも理解できます。しかし、無意味なノスタルジーだと笑われるかもしれませんが、25年前に自分の脚を石灰棚の湯に浸けながら観た天然のパムッカレ(写真9)は本当に美しかったと、今でもつよく印象に残っていることもまた事実です。
   (1990年8月、2015年8月 内田順文撮影)
   




                                              

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