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VOL.18-09  2016年09月

  日本のおもな二次林の群落断面」

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 都市近郊や、農山村の人里近く(里山)でみられる森林の多くは、自然林ではなく二次林(雑木林)や植林(人工林)である。二次林の大半は薪炭材利用その他の目的で伐採された跡地で自然に成立した森林であり、人為作用と自然環境の双方に応じてさまざまなタイプのものが分布している。今回は、大きくブナ科植物が優占するタイプとそれ以外とに分けて、日本の代表的な二次林の群落断面の事例を紹介していきたい。

1.ブナ科植物が優占するタイプ
 
クリやドングリなどをつけるブナ科の植物は、おもに北半球の広い範囲の自然林で優占するほか、薪炭材利用の跡地などで自然に再生した林においても、しばしば優占群落を形成している。以下では、日本の南西部から北東部(または高標高域)にかけて見られるブナ科優占のおもな二次林の群落断面を紹介していく。
写真1:スダジイ二次林(2000年12月4日、静岡県南伊豆町)  
写真2:アラカシ二次林(2015年6月8日、三重県紀宝町)
 写真1は、静岡県南伊豆町で12月に撮影されたスダジイ二次林である。12月でも大半の樹木が青々と茂っている。林冠層(林の最上層)で優占するのはスダジイ1種であるが、再生途上のため幹はまだ細い。手前は伐採跡地で、スダジイ等の切り株から多数の芽生えが生育している。スダジイ(オキナワジイを含む)やコジイが優占するシイ二次林は、西南日本の暖地を代表する二次林で、琉球(亜熱帯)から房総半島南部(暖温帯南部)にかけて広く分布している。
 写真2は、三重県最南部に位置する紀宝町の里山でみられたアラカシ二次林である。林冠層はほぼアラカシ1種によって占有されている。アラカシの幹は細長く、再生途上の二次林であることがわかる。林冠面が比較的滑らかなシイ二次林と比べると、やや粗い形の林冠面が形成されている。アラカシ二次林は、西日本の暖地においてやや頻繁な伐採が加えられた場合に成立しやすい二次林で、西日本の暖地の人里近くでは、写真2のようにアラカシ1種が圧倒的に優勢な林がよくみられる。
 
写真3:ウバメガシ二次林(2014年10月23日、香川県さぬき市)  写真4:春のシイ二次林とウバメガシ二次林(2002年4月14日、静岡県伊豆市小土肥)
 写真3は、周囲にはアラカシ二次林が多い香川県さぬき市の里山の一部に生育していたウバメガシ二次林の様子である。硬く丸い葉をもつウバメガシの細い幹が切り株から多数発生し、ウバメガシの純林が形成されている。西南日本の海岸近くの表土の薄い岩山などでは、しばしばこのようなウバメガシ二次林がみられる。ウバメガシは、ブナ科植物の中でも地中海沿岸に生えるコルクガシの仲間(硬葉樹)と近縁な樹種で、備長炭(びんちょうたん)の原木としてよく知られている。
 写真4は、伊豆半島西部で4月中旬に撮影されたシイ二次林(中央から右奥の黄緑色の部分)とウバメガシ二次林(手前から右にかけての深緑色の部分)の相観である。シイとウバメガシとは、この写真にみられるように、しばしば主たる生育場所を異にしている。

 以上ではブナ科植物のうち照葉樹(常緑広葉樹)が優占する二次林をみてきたが、以下の3タイプはブナ科の夏緑広葉樹(落葉広葉樹)が優占する二次林である。
 
写真5:林床管理型のコナラ二次林(東京都町田市、2002年4月) 写真6:定期的に伐採されてきたコナラ二次林のさまざまなフェイズ(静岡県伊豆市大仁、2002年4月13日)。
 写真5は、九州から北海道南部まで分布し日本を代表する二次林といえるコナラ二次林の一断面である。夏緑広葉樹のコナラが優勢な二次林であり、写真5では夏緑性の薄い葉が黄緑色を呈している様子がよくわかる。また、コナラ特有の幹の縦縞模様もみてとれる。この写真5に示したのは今日では希少になってしまった林床管理型の林分の様子であり、多くの管理放棄された林分では、ネザサ類や常緑広葉樹などがコナラ樹冠下で旺盛に繁茂している。
 写真6は、今日では珍しくなった、コナラ二次林が定期的に伐採されている地域の様子である。写真右上が成熟した二次林、右手前の茶色い部分が切り株の残る伐採跡地、写真左側が伐採後間もない再生途上の林分である。このようにコナラ二次林のさまざまなフェイズがモザイク状に分布する様子は、昭和30年代のエネルギー革命の前の日本ではごく普通にみられた景観であるが、今日ではなかなか見ることができないものとなっている。
 
写真7:ミズナラ二次林(2010年6月4日、東京都奥多摩町鍋割山)  写真8:ブナ二次林(2002年6月7日、新潟県南魚沼市石打丸山スキー場)
 写真7は、コナラ二次林よりも北方(高標高側)に広く分布するミズナラ二次林の一断面である。ミズナラの材はコナラ材と同様に薪炭材として優良であり、ミズナラ二次林もエネルギー革命の前までは北日本の広域において日々の煮炊きのためのエネルギー源としてきわめて重要な存在であった。一般に構成種数の多いミズナラ二次林は、今日では生物多様性保全の場として重要であるが、近年では広い範囲でシカによる構成種の食害が大きな問題となっている。写真7の奥多摩のミズナラ二次林は、撮影当時はシカ食害を免れていたため、まだ豊かな階層構造が発達している。
 日本海側の多雪地では一般にブナの更新が良好で、さまざまな好条件が重なった場所では、自然林を形成するブナが伐採跡地等においても旺盛に生育する場合がある。写真8は、そのようにして成立したブナ二次林の事例である。日当たりが良く傾斜も緩いスキー場ゲレンデ脇の伐採跡地では、直径5cm程度の多数のブナが一斉に生育していた。
 

2.ブナ科以外の樹種が優占するタイプ
 日本の亜寒帯・亜高山帯の針葉樹林域に成立する二次林では、ブナ科の樹木はほとんど見られず、しばしばカバノキ科のダケカンバが優占する群落が成立している。また、日本の亜熱帯~温帯の広い範囲においても、一般的な薪炭林の伐採(15~20年に一度程度)よりも強い人為作用を加えると、しばしばブナ科植物よりも成長の速いパイオニアタイプの樹種(アカマツやシラカンバなど)が二次林の優占種となる。以下ではこのような、ブナ科以外の樹種が優占する日本のおもな二次林の群落断面を紹介したい。

写真9:アカマツ二次林の林内(2009年10月29日、広島県三次市) 写真10:松枯れに伴う広葉樹林化の様子(2009年10月30日、広島県三次市)
 エネルギー革命よりも前の日本では、しばしば森林に強い人為圧が加えられ、瀬戸内などの降水量の少ない地域を中心にアカマツ二次林が広く成立していた。写真9は、今日でも比較的多くのアカマツ二次林が残存している中国山地のアカマツ二次林の事例である。昨今の管理放棄されたアカマツ二次林では、下層で広葉樹が繁茂してマツの樹勢が弱るとマツノザイセンチュウの被害を受けやすいようで、近年、アカマツ二次林の面積は減るいっぽうである。この林も最上層ではかろうじてアカマツが優占しているが、中~下層部はほぼ広葉樹によって覆われている。
 写真10は、写真9のアカマツ二次林のすぐ近くの森であるが、松枯れが相当に進行しており、広葉樹林(コナラ二次林)に遷移しつつある。いっぽうで、土壌が薄い尾根筋などの土地において森林が伐採されると、アカマツの実生が侵入・定着してアカマツ二次林が再生するような場合も、所々でみることができる。
写真11:シラカンバ二次林(2000年9月8日:北海道黒松内町)
写真12:ダケカンバ二次林(2010年10月4日、長野県茅野市蓼科)
 日本の温帯(夏緑広葉樹林帯)の広い範囲において、ブナ科植物がドングリ類を簡単に供給できないような強い人為作用(火入れ、耕作放棄、地形改変など)が加えられると、しばしば風で飛ばされてきたシラカンバの小さな種子が一斉に発芽・定着して速やかに成長し、ほぼ同齢のシラカンバからなる二次林が形成される(写真11)。シラカンバは典型的なパイオニアの樹種で材の密度が低く、寿命も短い。
 いっぽう写真12は、シラカンバに近縁なダケカンバが優占する二次林の事例である。シラカンバよりも北方(高標高側)に分布するダケカンバは、初期成長が速いというパイオニア的な性質をもちながら、寿命が長いという極相種的な性質も有しており、日本の亜寒帯・亜高山帯では自然林にもしばしば出現する。ブナ科植物がほとんど生育できないこの領域では、二次林においてもダケカンバがしばしば優占的に生育している。
写真1~12 磯谷達宏 撮影

<参考文献>
星野義延(1996)日本の雑木林の分類と分布(亀山 章 編『雑木林の植生管理-その生態と共生の技術-』),ソフトサイエンス社.
福嶋 司・岩瀬 徹 編著(2005)『図説 日本の植生』,朝倉書店.
宮脇 昭・奥田重俊 編著(1990)『日本植物群落図説』,至文堂.

                                              

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