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VOL.21-05  2019年05月

  「鹿児島県指宿市のランドスケープ

磯谷 達宏

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 指宿市を含む薩摩半島南部のランドスケープについては、2006年8月の『今月の地理写真』(VOL.8-08)において既に示したが、今回は3年生の野外実習でとくに指宿市内を詳しく見て回る機会を得たので、この地域の特徴的なランドスケープについて自然景観を中心に紹介していきたい。
<写真1> 指宿駅から海岸方面への入り口 <写真2> 指宿駅前のガジュマル
  薩摩半島南端に位置する南国指宿は、第四紀火山の影響が至る所で見られる、個性豊かな地域である。写真1と2は、指宿駅前の様子である。写真1では名物「砂むし温泉」の看板が目立つ。写真2では、南国的なイメージの常緑広葉樹ガジュマル(クワ科イチジク属)が、駅前のシンボルツリーとして植えられている様子がみられる。
 

<写真3>  指宿市中心部と錦江湾(背景にうっすらと桜島)  

 <写真4> 市中心部の沖積低地に残された湿地帯
 写真3は、指宿市中心部の遠景で、一帯は第四紀火山の影響を強く受けた地形である。錦江湾を隔てて遠景にはうっすらと桜島がみられる。写真4は、指宿市中心域で埋め立てを免れて保全された沖積低地の湿地帯(いぶすき御領ヶ池)である。かつては島津の殿様のお狩り場だったとのことである。
 

<写真5> 田良岬から知林ヶ島に至る砂州

<写真6> 指宿市内でみられたサボテン畑
 写真5は、指宿市東部の田良岬(写真5の右)から知林ヶ島(ちりんがしま:写真5の左)にかけてつながる砂州の様子である。錦江湾に浮かぶ知林ヶ島は、第四紀火山の阿多カルデラの一部と考えられている島である。田良岬から知林ヶ島にかけて連なる砂州は、3月から10月にかけての干潮時にその姿を現すとのことである。また、冬でも暖かい指宿市内では、珍しいサボテン畑をみることができた(写真6,7)。 
 
   
 <写真7> 収穫されているサボテン <写真8>  池田湖とその湖畔
 写真8は、鰻池(火口湖)と並んで有名な池田湖とその湖畔の様子である。池田湖は第四紀火山のカルデラ湖で、九州最大の面積をもつ淡水湖である。写真8の奥には外輪山が連なっている様子がみられる。写真9は、池田湖越しに開聞岳(やはり第四紀火山)を撮影したものである。このように、指宿市内では、第四紀火山によって形成された個性的なランドスケープを、至る所でみることができる。 
 
   
<写真9> 池田湖から開聞岳を望む

<写真10> 鰻池近くの雑木林(照葉二次林)

 『今月の地理写真』VOL.8-08にて言及したように、池田湖や鰻池の付近の森林では、指宿のような照葉樹林帯では通常は広くみられるシイ・カシなどのブナ科植物があまり生育しておらず、ブナ科植物が本来占めているような空間の多くが、照葉樹林帯におけるブナ科のライバルであるクスノキ科の樹種によって占有されていた。写真10は鰻池付近の雑木林(二次林)の一例であるが、ここでもブナ科植物は少なく、優占種はクスノキ科のタブノキとクスノキであった。南国らしく、林床ではアオノクマタケラン(ショウガ科の常緑多年草)が繁茂している。 
 
   
<写真11>  クスノキが多い枚聞神社の社叢 <写真12>  タブノキとクスノキが優占する社叢
 池田湖・鰻池付近の神社林を学生と一緒に相当数見て回ったが、ブナ科植物が優占する林分はみられず、ほとんどの社叢においてクスノキやタブノキが優占していた(写真11,12)。
 <写真1〜12:2018年10月23-26日,磯谷達宏 撮影>
 

                                              

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