VOL.22-01 2020年01月
「三浦半島の植生
磯谷 達宏
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神奈川県の三浦半島は、首都圏にありながら、海から低山までの多様な自然を観察することができる貴重な地域である。今回はこのような三浦半島でみられるおもな植生を紹介したい。 |
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写真1:葉山町から西海岸を南に望む |
写真2:城ヶ島大橋から北東方向を望む | ||
写真1にみられるように、三浦半島には海あり山ありの魅力的な景観が広がっている。植生でもっともよく目につくのは、かつて薪炭採取などの目的で伐採された後に生じた雑木林(二次林)である。真冬に撮影された写真2からもわかるように、冬でも海風の影響で比較的暖かい三浦半島には、落葉広葉樹ばかりでなく常緑広葉樹(照葉樹)も多い二次林が広く分布している。 | |||
写真3:京急長沢駅の裏山 |
写真4:南方系植物のオオアリドオシ | ||
写真3は、6月中旬に京浜急行の京急長沢駅のホームから撮影された付近の里山の様子である。黄緑色の新緑が目立つのはブナ科(ドングリの仲間)のスダジイで、尾根筋を中心に生育している様子がよくわかる。このような三浦半島南部の樹林には、寒さには弱い南方系の植物がよく生育している。写真4は、このあたりで撮影された低木種のオオアリドオシ(アカネ科)である。アカネ科の植物(コーヒーノキもこの仲間)は、日本の常緑広葉樹林の中でも南に行くほどよくみられるようになる。 |
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写真5:果樹園のある里山(津久井浜地区) |
写真6:管理による二次林の違い | ||
写真5は、観光農園を含む果樹園が多い津久井浜地区の里山の様子である。これも真冬に撮影された写真なので、常緑樹広葉樹が広く分布している様子がよくわかる。写真6は同じく津久井浜地区の二次林で、同じような地形上でも、左上には落葉広葉樹が多く、右上には常緑広葉樹が多い。このような違いは、雑木林の管理の仕方の違いによって生じたのであろう。 | |||
写真7:ダイコン畑(台地上)と二次林(谷筋) | 写真8:台地上の畑と谷筋の二次林 | ||
写真7と8は、いずれも半島南部の台地が卓越する一帯(岩堂山方面)で撮影されたもので、台地面上=畑、台地を刻む谷=雑木林という基本的な土地利用の様子がよくわかる。 |
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写真9:集水域が保全された小網代の森 | 写真10:こんもりとしたマテバシイ林(奥) | ||
半島南西部にて、雑木林を主体に建造物がほとんどない集水域の一帯が保全されてきたのが、「小網代の森」(写真9)である。写真9は河口付近の様子で、手前から中央にかけて広がるのはヨシ群落である。イネ科の多年草ヨシ=アシなので、かつての「豊葦原瑞穂の国」の面影をみることができる。なお、小網代の森の様子は、「今月の地理写真」のVol.14-07に集録されている。写真10は、こんもりとした常緑広葉樹の森、マテバシイ林である。マテバシイは、西日本では自生する樹種であるが、南関東のものは、「海苔ひび」採取や飢饉対策(大きな実が食用可)の目的で、かつて植栽されたものとされている。 | |||
写真11:森戸川流域のオオシマザクラ林 | 写真12:ビャクシンの生け垣(防風林) | ||
写真11は、春の三浦半島で真っ白な花が目立つオオシマザクラの森である。園芸品種ソメイヨシノの父であるオオシマザクラは、本来は伊豆諸島が自生地で、三浦半島でみられるのは植栽由来のものである。写真12は、強風の影響を受けやすい三浦市南部の旧家でみられたビャクシンの生け垣(防風林)である。ビャクシンは、海岸の最前線付近に自生するヒノキ科の針葉樹で、海からの風が強い地域では防風林として活用されてきた。 | |||
<写真1:2012年4月8日,写真2,4〜8,10,12:2016年2月16日,写真3:2019年6月14日,写真9:2010年5月5日,写真11:2005年4月10日, 磯谷達宏 撮影> |
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