VOL.23-02 2021年02月
「ブルガリアの山(2)・ピリン山地ヴィフレン山
佐々木 明彦
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前回に続いて2006年9月に訪れたブルガリアの山を紹介する。今回の対象はピリン山地の最高峰のヴィフレン山(標高2914m)である。ピリン山地はブルガリアの南西部,南の隣国ギリシャと西の隣国北マケドニアに近い,バルカン半島の根元に位置する。ピリン山地は新生代の断層運動にともなって褶曲し大きく隆起した山地であり,ヴィフレン山をはじめとして標高2500mを超える山が60座ほど連なる。たくさんの氷河地形がみられアルプス的景観がひろがるピリン山地は,ブルガリアで最も美しい山地とされている。ピリン山地の北部一帯はブルガリアで最大の国立公園であるピリン国立公園に属している。ピリン国立公園は,約4万ヘクタールの面積を有し,変化に富む景観と絶滅危惧種を含む豊富な動植物がみられることによって1983年にUNESCOの世界自然遺産に登録されている。 |
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<写真1> | |||
ブルガリア第2の高峰のヴィフレン山(Vihren)を標高950mのバンスコ(Bansko)の街からみる。現在のバンスコは東ヨーロッパ随一のスキーリゾートとして知られている。2006年時点では,写真の画角にクレーンを入れずに撮影することが困難なほどの建設ラッシュであった。 | |||
< 写真2> | < 写真3> | ||
ヴィフレン山の登山口(標高1950m)はBanderica川が流れる浅いU字谷の谷底にある。写真に写る建物はヴィフレン小屋で,ここでの年平均気温は3.7℃,年降水量は平均1500mmである。登山口までバンスコからシャトルバスが出ている。 | 登山道は浅いU字谷の谷壁を登り,その後は堆石を越え,圏谷底を横切り,圏谷壁を登ってゆく。よく整備された歩きやすい登山道である。 | ||
<写真4> |
<写真5> | ||
ドイツトウヒPicea abiesの分布限界は標高2100mである。ここから上方の標高2300〜2400mまではハイマツ帯となる。日本の中部山岳でおなじみの景観がひろがっている。 | ハイマツ帯の樹種はムゴマツPinus mugoである。日本ハイマツPinus pumilaが5葉であるのに対し,ムゴマツの葉は2葉である。ムゴマツはヨーロッパの中部から東部にかけて,かなり広範囲に分布している。 | ||
<写真6> |
<写真7> | ||
ヴィフレン山の山頂付近を南側からみる。ヴィフレン山一帯は大理石からなり,氷河で削られた真っ白な岩肌を見せている。ここからは見えていないが,東面の圏谷壁の比高は400mあり,圏谷壁の下端の標高2430-2500mに小さな氷河が残存している。 | ヴィフレン山の山頂直下の急登。大理石の平滑な大斜面である。表面は凍結破砕作用で生産された大理石の角礫に覆われる。 | ||
<写真8> |
<写真9> | ||
ヴィフレン山山頂。山頂は平坦でかなり広い。大勢の登山者で賑わう。 | 山頂から南東側,Banderica川の谷頭部を望む。ヴィフレン山の南側の山塊は花崗岩からなる。写真中央の峰が標高2737mのバンデリシキ・チュカール山(Banderishki Chukar)である。写真奥の谷頭部は,小さな雪田を溜める上段の圏谷と,氷河湖をもつ下段の圏谷とに分かれている。また,写真手前の圏谷には,圏谷底から氷食谷壁にかけて堆石と羊群岩が分布している。 | ||
写真10> | |||
ヴィフレン山の山頂から北西に続く頂稜を見る。手前から標高2908mのクテロ1峰(Kutelo 1),クテロ2峰(標高2907m)と続く主稜線は,大理石の岩体が氷食を受けて痩せた稜線になっている。主稜線の南西側の斜面は浅い凹型の氷食斜面であるが,写真の稜線の裏側がバンスコに面する側で,そこには大理石を侵食して形成されたU字谷が並ぶ | |||
<写真11> | <写真12> | ||
ヴィフレン山頂から北麓のバンスコの街を望む。バンスコはかつて農村の中心地であったが,国際的な観光需要の増加と資本の流入によって,国立公園と旧市街地を統合させた観光空間が形成されている。 | バンスコの様子。ロッジや土産物屋,スポーツ店などが通りに並び,観光リゾート地としての様相をみせている | ||
<写真13> | <写真14> | ||
バンスコでは2003年に数千ヘクタールの森林を切り開いて新しいスキー場が開設された。ゴンドラやスキー・リフトも相次いで建設され,それらを取り巻いて建設された保養施設や宿泊施設を中心に活気のある街となっている。スキー場は国際規格のスキー競技会が毎年実施されるほどの評価も受けている。しかし,環境保護論者は「環境の危機」との声を上げている。 | |||