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VOL.24-04
  2022年04月

  西アフリカの交易(1)ガーナ各地の市場

桐越 仁美


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 西アフリカは古くから交易が盛んな地域です。紀元1000年頃にはすでに西アフリカの金がアラブ世界に輸出され、金貨に加工されていたことがわかっています。西アフリカには商業民と呼ばれる人びと(民族)が複数存在し、独自のネットワークで数々の交易品を輸送しています。彼ら・彼女らの独自の交易ネットワークは、元をたどれば、アラブ世界との関わりのなかで形作られてきたものです。西アフリカでは、交易ネットワークとともに商業共通語や組織体系、取引の形態など、多くの「商慣行」がアラブ世界との交流のなかで生み出されたとされていますが、それらは脈々と現代に引き継がれています。
現代に引き継がれた歴史的交易の形跡。そのひとつに市場があります。現在、ガーナ国内には無数の市場がみられますが、その地域の中心をなす市場のほとんどは、18~19世紀以前に成立したものです。道路の交差点や植生の移行帯などの結節点に成立したこれらの市場には、当時、数十から数百人によって組まれたキャラバン隊が滞在し、各地の交易品が持ち込まれ、それは賑わっていたようです。今でも市場では、多くの商人が行き交い、多様な交易品に彩られた活気ある様子をみることができます。また、ガーナの市場は「マーケットマミー」と呼ばれるパワフルな女性商人がいることで有名です。
 

 
写真1 アッパー・イースト州の市場①    写真2 アッパー・イースト州の市場②    
     
アッパー・イースト州はブルキナファソやトーゴと接しているので、多様な商人や交易品が流れ込んできます。写真のマーケットマミーが売っているのは、料理用のスパイスや穀物、石鹸などの日用品などです。お昼過ぎの市場は、今晩の食事の準備のために立ち寄った女性たちで賑わっていました。このような市場がガーナ国内の各地に形成されています。
 
 
写真3 クマシのセントラル・マーケットを上から見た様子   写真4 セントラル・マーケットの内部
     

クマシは18~19世紀にガーナ南部の地域に栄えたアサンテ王国の王都でした。アサンテ王国は、西洋諸国を相手にした奴隷貿易と西アフリカ内部のコーラナッツ交易を基盤とした盤石な経済力に支えられ、大きく勢力を伸ばしました。コーラナッツは西アフリカの嗜好品で、おもに内陸乾燥地で消費されます。アサンテ王国時代からその中心にあったのが現在のセントラル・マーケット(現地名:ケジェティア・マーケット)です。西アフリカ最大のマーケットともいわれています。写真3のトタン屋根で覆われた広大な土地すべてがセントラル・マーケットです。なかは迷宮のようになっていて、初心者がうっかり入ると迷子になって出られなくなるので注意が必要です。

     
写真5 アサワシ・マーケットのコーラナッツ区画 写真6 アサワシ・マーケットで取引される中古自転車
     
同じくクマシにあるアサワシ・マーケットは、ムスリム商人が出入りする市場です。こちらの市場には、内陸乾燥地に送るための交易品が集積しています。ここで有名なのはコーラナッツや自転車です。写真6で取引されている中古自転車は日本から送られてきたものです。
     
写真7 テチマン・マーケットの穀物区画     写真8 テチマン・マーケットの家畜区画
     
     
写真9 テチマン・マーケットで穀物を積み込むトレーラー     写真10 テチマン・マーケットの日用品売り場
     
クマシから北西約120㎞の町テチマンは、半落葉広葉樹林帯からサバンナ帯への移行帯に位置しています。程よく雨が降り土地の余剰があるため、周囲には広大な農業用地が広がり、様々な作物が生産されていることから「ガーナのフードバスケット」とも呼ばれています。ここの市場ではおもに農業生産物が扱われており、ここから周囲の国ぐにへと輸送されていきます。  
     
     
     桐越仁美 撮影

                                              

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