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VOL.24-09
  2022年09月

  箱根仙石原-冬枯れのススキ草原-

磯谷 達宏


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 冬枯れの時期ではあったが、観光資源としてのススキ草原がよく知られている箱根の仙石原を訪れる機会があったので、ここに紹介する。
     
写真1:仙石原ススキ草原の全景。    写真2:入口付近の様子
 箱根仙石原のススキ草原の全景を写真1に、入り口付近の様子を写真2に示した。この草原は、遅くとも江戸時代からは草地(カヤ場)として利用されてきたが、利用価値が減った昭和の中頃には管理放棄されていた。しかしながら、その後しだいに観光資源としての価値が認められるようになり、近年は箱根町によって所有・管理されるようになっている。昨今では、原則として年に1回、3月に野焼き(火入れ)が行われ、ススキ草原として維持されている。
 この付近の植生変遷については、植物珪酸体等の分析にもとづいて文献1で詳しく述べられており、1000年程度のタイムスケールにおいて、ネザサの仲間のハコネダケ(+木本類)が優勢な時代から、ススキが優勢に時代に移り変わってきたものと推定されている。なお、この付近のススキ草原の種組成については、文献2と文献3に記載されている。
   
 写真3:南側は箱根湿生花園や古期外輪山に続く    写真4:台ヶ岳に続く北側の様子
 写真3は、この草原の北側(斜面下部側)の様子である。車道を境にして遠方には箱根湿生花園が広がっている。スカイラインを形成する山々は、箱根火山の古期外輪山である(一番高い山が有名な金時山)。写真4は、この草原の南側(斜面上部側)の様子である。この一帯は、箱根火山の中央火口丘の一つの溶岩ドーム、台ヶ岳の山麓部に位置している。仙石原の低地部は広く約3000年前の「神山岩屑なだれ堆積物」に覆われるとされているが、台ヶ岳山麓に位置する仙石原ススキ草原の一帯の地質は、「後期中央火口丘期の火砕流・泥流・土石流堆積物」とされている(文献4)。 
 
 
写真5:折り返し地点    写真6:「インスタ映えスポット」となっている様子
 仙石原ススキ草原内の通路は一本道で、散策に訪れた人々は、折り返し地点(写真5)まで来ると同じ道を戻ることになる。写真6に示したように、今日では「インスタ映えスポット」としても、人気の観光地となっている。 
文献1:高岡貞夫・吉田真弥(2011)植物珪酸体と微粒炭の分析から推定される箱根町仙石原におけるススキ草原の成立過程.第四紀研究50,319-325.
文献2:宮脇 昭ほか(1980)箱根仙石原の植生.横浜植生学会.
文献3:安島美穂・浜田直美(1999)箱根仙石原におけるススキ群落の埋土種子集団.生態環境研究6,87-92.
文献4:長井雅史・高橋正樹(2008)箱根火山の地質と形成史.神奈川県立博物館調査研究報告 自然科学13, 25-42.
 
  <写真1~6:2021年12月18日,磯谷達宏 撮影>



                                              

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