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VOL.25-11
2023年11月
「東京都図師小野路歴史環境保全地域付近のランドスケープ
磯谷 達宏
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写真1 保全地域の案内版 | 写真2 南西側に開いた「神明谷戸」 | ||
東京都町田市の北部に位置する「図師小野路歴史環境保全地域」は、東京都の保全地域として、小野路城址と多摩丘陵北部の伝統的な農村景観を含む歴史的な遺産が保全されてきた地域である(写真1)。写真1の案内板には、「豊かな里山の自然環境を保全するため、地域住民からなる町田歴環管理組合に植生管理を委託し、昔ながらの農業手法により管理がなされています」と記されている。また、この保全地域は、隣接する「奈良ばい谷戸」(「NPO法人まちだ結の里」が活動)とともに、環境省による「生物多様性保全上重要な里地里山」に選定されている。 |
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写真3 東側に開いた谷頭の広い「万松寺谷戸」 | 写真4 ため池のある「五反田谷戸」 | ||
この保全地域付近の一帯は、写真2~4にみられるような、大小10個ほどの良好に保全・管理された谷戸によって構成されている。それぞれの谷戸は、谷が走る方位も異なり、微地形のパターンや植生・土地利用も多様で、全体として多摩丘陵北部の伝統的な里地里山のランドスケープ・生態系を今日に伝える、きわめて貴重な緑地となっている。この保全地域が指定された経緯や自然再生の過程については、北川(2001)に詳しい。またこの地域は、多摩丘陵における自然環境研究の中心的な地域となっており、多摩丘陵の自然とその管理を理解する上で重要な様ざまな研究が行われてきた(文献リスト参照)。 |
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写真5 「小野路宿里山交流館」のある「小野路宿通り」 | 写真6 常緑高木が茂る「六地蔵」付近 | ||
写真5は、この保全地域の表玄関となっている小野神社前バス停付近の様子である。写真の道路は宿場町の面影を残す「小野路宿通り」で、左側の建物は、町田市が運営する「小野路宿里山交流館」である。ここから歩いてほど近いところに、万松寺谷戸(写真3)や「六地蔵」(写真6)がある。南向き斜面の六地蔵付近では、自然林に近づいた、照葉樹の多い高木林が発達している。 |
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写真7 「小野路城址」の案内板 | 写真8 「小野井戸」とその案内板 |
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保全地域の中央付近には、中世に造られた小野路城の城址があり(写真7)、付近では小野小町にまつわる伝説のある「小野井戸」もみられる(写真8)。 |
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写真9 「乗越八幡跡」付近 | 写真10 管理されたコナラ二次林 |
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写真9は、小野路城址の南側に位置する「乗越八幡跡」と呼ばれる遺跡付近の様子である。この付近も、この緑地への重要な出入口の一つとなっている。写真10は、この一帯の所どころで見られる、植生管理が続けられてきたコナラ二次林(夏緑広葉樹林)の様子である。比較的若い林分のためか、老齢のコナラ二次林で被害を受けやすい「ナラ枯れ」の影響をあまり受けていない。林床では、管理放棄されると一面に繁茂しやすいアズマネザサがよく抑えられており、明るい林内に今日では希少となった草本種が数多く生育していた。 |
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写真11:「展望台」の休憩所 |
写真12: 「奈良ばい谷戸」の休憩・作業場 |
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この一帯では、各所で市民による里地里山管理の活動が活発に行われており、写真11・12にみられるように、見るからに居心地の良さそうな空間が方々に広がっている。 |
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<文献リスト:この地域で行われてきた研究成果の事例(年代順)> ・北川淑子(2001)管理組合による里地の自然再生-図師・小野路を例に-.『里山の環境学』(武内和彦ほか編)、東京大学出版会. |
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<写真1~12:2023年9月25日,磯谷達宏 撮影> |
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