Vol.5−11 2003年11月号
「滝線都市の今と昔 「わが心のボルティモア の舞台」 」
このページは画像が大きいので、電話回線での閲覧は時間がかかります。
「今月の衛星画像」で使用したデータの中には、「研究利用目的配布」で購入したデータが含まれています。
ADEOS衛星の場合、データ所有および提供は宇宙開発事業団 です。MOS,MOS-1bの場合、データ所有および提供は宇宙開発事業団 です。
LANDSATの場合、データ所有は米国政府、提供はSpace
Imaging(R)/宇宙開発事業団 です。SPOTの場合、COPYRIGHT CNES、提供はSPOT(R)/宇宙開発事業団 です。
※ 「今月の衛星画像」
2003年は名画・名作の舞台を宇宙からみる という特集を企画しました。
ただし、途中で息切れ、中断があるかもしれません。 ※
今月は、「わが心のボルティモア」の舞台となったボルティモアです。
頻繁にあるわけではありませんが、HPを開いているとさまざまな質問メールが来ます。自分で調べてくれと返事を出すのは、質問者の在籍する大学で出題されたらしいレポートの模範解答を遠回しな表現で聞きに来るものと、地理用語の意味を教えてくれというもの。少しの手間をかければ自分で調べられるのにムシがいい・・・。
少し前に来た質問の一つが「滝線都市」に関するものです。その質問の答えを今月はまず書いてみましょう。
そのむかし、地理の授業で習った「滝線都市（瀑(布)線都市）」の代表格が今月の舞台ボルティモアである。アメリカ東部、アパラチア山脈東麓のピードモント台地は、さらにその南東の海岸平野に沿って地形の大きな変換線（高度的なギャップ）をつくっている。山脈から流れ出る川が、たくさんの急流（滝）をこの変換線上に連続的につくっていることからこの変換線を滝線とよぶ。滝の落差を利用した水車（のちに水力発電所）が設けられ、これによって工業が立地し、滝線に沿ってずらりと工業都市がならぶことになる。これが滝線都市だ（図１）。
ボルチモアが滝線都市だからといって、街中に滝や発電所があるわけではないし滝線の位置は市街のずっと西側にあるのだと思う。行ったことがないので、断定はできないけれど。ボルチモアの西方にアパラチア山脈があるが、この山脈は古い褶曲山脈で、衛星画像には山麓部分に幾筋もの山脈から派生する細長い丘陵状の地形が見える。画像１は、ボルティモアの西方数十キロにあるこのような丘陵を横切る横谷の画像である。
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| 青い線は、世界大百科事典の「滝線都市」の図に書き込んだ滝線 | 画像１ 2000年10月 ランドサット７号 RGB: 5 8(ETM+) 1 衛星データは以下同様 |
ボルティモアは、メリーランド州最大の都市で人口は約65万人という大都市である（メリーランド州の情報はここに詳しい）。18世紀はじめに町が建設され、当初タバコの輸出港として栄えたこの町はのちに製粉や造船業などの工業都市として急速に発展した。歴史的に見てもボルティモアはアメリカ合衆国の発展と共に生きてきた都市といえる。独立革命や南北戦争でも重要な役割をはたした都市である。この都市の歴史的な説明は、別のWebサイトを探してもらった方が良いだろう（例えば日本語のページで代表的なものはこれ）。
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| 画像２ チェサピーク湾の最奥部に位置するボルティモアの周辺では、カキの養殖やカニ漁などの漁業も盛んである。チェサピーク湾の幅は、このあたりで約20キロメートルほどある。 |
海運や鉄道の要所として発展したボルティモアは、飛行機や自動車による輸送が発達すると、しだいに町の活気がなくなってしまった。そこで、1960年代からダウンタウンとインナー・ハーバー地区の大規模な再開発が進行し古い港を作り替え、現在では往年の活気を完全に取りもどしたといわれている。ウォーター・フロント再開発の成功例として、地理の講義でもしばしば登場することになる。
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| 画像３ ボルティモアの中心街と再開発された港湾地区。 |
「わが心のボルティモア」はほんとうに美しい映画だ。冒頭、独立記念日の夜に移民としてボルティモアに上陸した男の背後の空を、記念日を祝う花火が照らす。花火を背にしながら、東欧から来たこの男は見たこともない美しい街の夜景を前に、不安よりも輝ける明日を確信しながら中心街をめざして歩いてゆく。
回想シーンも美しい。映画に登場する60年代頃までのボルティモアの街並みや郊外の住宅街の景観が美しい。一族の繁栄がありそしてめぐり来る離散。ストーリーは、決して幸せのうちに終わるわけではないけれど、東欧から来た移民の一代記とアメリカのもっとも豊かな時代の話がつづられている。
チェサピーク湾沿岸の、このシーンのRS画像はとても美しい。ここで取り上げた画像の何倍も美しい絵が、この都市の周辺にひろがっている。見ていて飽きない。豊かな自然と美しく開発された郊外の景観が目に浮かぶようだ。