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VOL.2-9  2000年9月

「名蔵湾アンパルのマングローブ林」
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 八重山諸島の石垣島にある「アンパル」は、日本にあるマングローブ湿地の大半が、幅狭い河谷低地の河川沿いにあるのに対し、サンゴ礁をもつ内湾部に長い砂州によって境され干潟化されたラグーンにマングローブ林が生育し、さらにその内陸側に旧砂州や水田・草地の後背湿地をもつ特異な地形環境をもっていると思われます(図1,2)。


       

       (図1) LANDSAT画像より              (図2) 数値地図25000 を加工


 写真1,2は、干潮時と満潮時のアンパル干潟です。潮位差は大潮の時に約1メートル20〜30cmになり、満潮時には、マングローブ林の奥まで冠水します。「アンパル」という地名は、魚を捕る網を張る港「アンパルミジュ」に由来し、かつては干満を利用して魚を捕っていた場所であったということです。
 大正期以降に作成された地形図や植生図から、この干潟の変遷は比較的簡単に抽出できます。例えば1950年代に米軍が作成した植生図(ここでは省略)と最近の地形図(図2)を比較するだけでも、マングローブ林の陸側にあった低湿地がすべて草地に変わり(おそらく人為的に)、後背湿地の乾燥化が数十年で進行したことがわかります。また、低湿地の周辺にあった水田は戦後すべて畑地に変わり、土地利用形態の変化が湿地の高燥化を推進させたらしいことがわかります。
 1950年代以降の7時期に、米軍や自治体、国によって空中写真(航空写真)が撮影されていますが、この中から最近の72年−91年までの約20年間を比較してみると大きく二つの変化が認められるように思われます。 一つは干潟の表面の色調が変化していることです。たとえば、83年頃までは干潟の表面は流路を中心として黒っぽい色調が支配的ですが、80年代の半ば過ぎから急に明るい、あるいは赤っぽい色調に変化します。 もう一つはマングローブが海側に徐々に拡大しているということです。 ひとつ目の変化はおそらく赤土の流入と堆積に対応していると思われます。本来は暗い色調の干潟の表面が、流入してきた堆積物に覆われて、徐々に変化したということです。また、これに呼応するようにマングローブ林の前縁が海側に向かって前進をはじめ、1920年代と最近の地形図で比較するとマングローブ林は面積比で2倍程度増加しました。南側の放水路を通じて、化学肥料などの栄養塩をたっぷり含んだ赤土(表土)が干潟に流れだし、この影響がアンパルの干潟環境に大きな変化を与え始めているのです。
 なお、鳥類やさまざまな生物の豊富なこの干潟を、ラムサール条約に登録しようとする動きがあります。


  

(写真1)                   (写真2)  

(写真3) 

<写真撮影 長谷川均、2000年3月>


文献:山内、長谷川、目崎ほか(1995)サンゴ礁干潟の環境変化と保全(T)、(U) プロ・ナトゥーラ・ファンド第3期、第4期  助成研究成果報告書.(財)日本自然保護協会   
マングローブの一般的な知識を簡単に説明した最近のものとしては、馬場繁幸「天然環境「沖縄の位置」− ひるぎと呼ばれるマングローブ −」、『沖縄ポップカルチャー』所収、東京書籍、2000年 がわかりやすい。  

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