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VOL.3-07  2001年07月

近江八幡市の葦(ヨシ)加工産業
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 「ヨシ」とはもちろん「アシ」のことである.「あし」というという音を忌み 嫌い「よし」と呼ぶようになったらしいが,「ヨシ」「アシ」ともに言葉として 定着しており,実に紛らわしい.さて,その葦はイネ科の多年草であり,各地の 水辺に自生している(写真A).辞書(『広辞苑』第5版)によれば,世界で最 も分布の広い植物の一つだそうである.
 ただし,写真A・写真Bに見える葦は,単に「自生」しているのではなく, 「栽培」されている葦である.写真Bは琵琶湖の「内湖」(琵琶湖の周辺の砂州 や低湿地にできた小湖沼)における葦原の様子である.葦原中に柳の木が茂って いるのが見えるが,これが葦原の地割の目印(境界)になっているそうである. この柳の木による地割を基に,この葦原には地番も付いている.したがって,こ こは葦原というよりも葦「畑」ということになる(ただし,地目上は「原野」に なるとのこと).
 葦は冬枯れするのを待って,12月〜1月頃に刈り取られる.作業は機械化され ておらず,手作業での刈り取りになる(写真C:刈り取りに使われる鎌).一度 に刈り取ることになるので,整理が間に合わない.したがって,写真Dのように 周囲には葦を立てかけてあるところも多い.よくこの風景を見て「葦を干してい る」という人がいるそうだが,あくまで整理をしているだけで干しているのでは ないとのこと.
 収穫された葦はもともと葦の生産農家から加工業者に出荷されていた.しか し,冷房の普及などライフスタイルの変化により,主用途である葦簀(よしず) の需要が減り,葦そのものの需要は減っている.また輸入品にも押され,国内の 葦の需要は激減している.そこで現在は葦農家が加工も一緒に行うことが多くな っているそうである.主な用途は前述の葦簀である.長いもの(6尺以上)は立 て掛けて使い,短いもの(6尺未満)は吊って使うのが一般的だそうだ(最近は マンションなどを中心に冷房効率を上げるために葦簀を使う家も増えてきている そうである;周囲の家などで見かけませんか?).屋内用では障子・ついたてな どにも使われる.量そのものは少ないが,筆のさや,篳篥(ひちりき:雅楽の管 楽器の一つ)などにも使われる.また,近江八幡周辺の地域では屋根材料(ヨシ 屋根:茅葺きや藁葺き屋根と同様のもの)としても使われるそうである.(写真 E:こうした葦加工業の現状についての説明を聞く).
 また,近年は葦原の景観を生かして「水郷巡り」の船も運航されている(写真 F).週末は京阪神からの日帰り観光客で賑わうそうである.船頭さんは周辺地 域出身の農家の人々やサラリーマン退職後の人達である.かつては道路の整備も 進んでおらず,普段の交通手段として船を使い,彼らも小学生の頃から船の櫓を 握っていたとのことであった.まさに「昔取った杵柄」というところである.

  
(写真A)                   (写真B)

  
(写真C)                  (写真D)
   
(写真E)               (写真F)


<写真A〜F:いずれも2001年5月,経済地理学会大会巡検にて,加藤幸治撮影 >

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