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VOL.20-12  2018年12月

  「わたしのアラスカ物語

佐々木 明彦

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 2005年9月初旬,アメリカ・アラスカ州で2番目に人口の多いフェアバンクス市を拠点として地形の調査を行った。その際に見てきたおもに自然環境を振り返ってみた。    
       
<写真A>Summit湖付近よりアラスカ山脈南面に流下する谷氷河を望む(2005年9月9日撮影)     <写真B>アラスカ山脈のBlack Rapids氷河の谷を望む (2005年9月9日撮影)    
 アラスカ山脈はアラスカ湾に沿って弧状に,約700 kmにわたって続く山脈で,おおむね2000〜3000 mの高さの峰が連なる。山脈南面にはアラスカ湾からの湿った空気によって多量の降雪があり,最長50 km以上におよぶ谷氷河が形成される。写真に見えている谷氷河はGulkana氷河とよばれ,長さ10kmほどの氷河である。      写真手前はDelta川の氾濫原で,その背後の高まりの奥の谷がBlack Rapids氷河の谷である。Black Rapids氷河は,1936-37年冬季に急速に3マイル(4.8km)以上前進しDelta川まで押し出したことが知られているが,現在の氷河末端は10 km以上後退している。
   
     
     

       

<写真C>北米最高峰のデナリ (2017年12月18日撮影)

     <写真D>Tanana川の網状流路 (2005年9月9日撮影)    
 ヒューストン−成田便がデナリ(標高6190 m)の直近南側を通過した。デナリは現地先住民語で『大きなもの』という意味で,2015年にそれまでの『マッキンリー山』から名称変更となった。標高2000〜3000 mの峰が続くアラスカ山脈にあって,ひときわ飛び出た存在の高峰である。山体は50 km四方に広がり,まさに『大きなもの』である。
     Tanana川はアラスカ山脈に端を発し,北西に流れて,フェアバンクス市の南側を通って,ユーコン川に合流する。広い谷底を網状に流れる河川である。
   
     
     
       

<写真E>Tanana川の支流沿いの堆積物 (2005年9月4日撮影)

    <写真F>Steeseハイウェイ沿いの山火事跡 (2005年9月5日撮影)    
Tanana川の支流沿いに土砂が堆積している。土石流や洪水の堆積物にも見えるが,これは砂金採掘の名残で,河床をさらって金を探した残土である。アラスカ中央部は1800年代の終わりにゴールドラッシュに沸いた地域のひとつである。
 
    アラスカに限らず空気が乾燥した高緯度地域では山火事が多発する。ここでは,針葉樹の森が焼けて永久凍土が融けたため,融氷水で過飽和となった活動層が泥流となって流れた。
 
   
           
           
         
 <写真G>Eagle Summitの周氷河性平滑斜面 (2005年9月4日撮影)     <写真H> Eagle Summitのソリフラクション・ロウブの断面(2005年9月8日撮影)    
 フェアバンクスからSteeseハイウェイを北東に進むと,標高1000 mほどの山が連なる地域がある。それらの斜面は周氷河作用によって平滑な斜面形となっている。そのなかに鱗状の段差が認められる。これは巨大なソリフラクション・ロウブの集合体である。      ソリフラクション・ロウブのライザーを掘削調査した。高さ1 m強のライザーの断面では,かつての地表にあった土層がロウブの構成物の下位に巻き込まれていることを確認できた。これはロウブがキャタピラーのように動いて前進したことを示している。巻き込まれた土層の放射性炭素年代を測定することで,ロウブの前進速度を明らかにできる。    
   
     
       
<写真I> Eagle Summitにみられる構造土 (2005年9月8日撮影)    

<写真J>トランス-アラスカ パイプライン(フェアバンクス近郊にて(2005年9月9日撮影)

   
Eagle Summitには地表をつくる物質の凍結融解の繰り返しによって大規模な多角形土が形成されている。
     アラスカ北極海沿岸のプルドーベイ(Prudhoe Bay)から太平洋側のバルディーズ(Valdez)までを総延長1280 kmで結ぶ石油パイプラインであり,1974年〜1977年に建設された。動物の行動を妨げないために,パイプラインは1280 kmのうち670 kmが高架になっている。一方,架台から地中に熱が伝わると,永久凍土が融解し,架台が歪んでしまいかねない。そこで,パイプの架台には永久凍土を融かさないように熱交換器が取り付けられており,地温が気温より高い場合は地温を放熱して冷却し,気温が地温より高い場合は熱の伝導を遮断することによって地温上昇を防いでいる。    
           
           
           
<写真K> パイプラインの架台 (フェアバンクス近郊にて2005年9月9日撮影)     <写真L> パイプラインを通る“pigs” (フェアバンクス近郊にて2005年9月9日撮影    
 パイプの架台の幅は5.4mあり,パイプはこの架台の上に固定されずに載っている。熱膨張などによるパイプの伸張・短縮や地震などによる地盤の変動を受け流すことができる。パイプを部分的にジグザグ敷設することと併せて,外的な要因によるパイプラインの破損を防いでいる。架台にはパイプを検査した日付とパイプの位置が記されていた。
     パイプは直径が1.2 mで,1日150万バーレルの石油を輸送することが可能である。途中に11カ所あるポンプ場では,自家発電によって得られる電気を用いてポンプを動かしている。ポンプ場間のパイプの中には“pig”とよばれる物体が石油と一緒に流れている。これは,パイプ内側の洗浄をするとともに,“pig”に付随する磁力と超音波信号を使ってパイプの厚みと形状のわずかな変化を検出している。
   
   
2005年9月 佐々木明彦撮影    

                                              

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