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VOL.21-06  2019年06月

  「モン・サン・ミシェル

内田 順文

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 世界遺産として書籍やテレビで紹介されたことから、一気に日本人に広く知られるようになった観光地に、ペルーのマチュ・ピチュやスペインのサグラダ・ファミリアと並んで、フランスのモン・サン・ミシェルがあります。今でこそ子供でも知っている有名観光地ですが、私が偶然その姿を写真集で発見し、初めてヨーロッパを旅した際、いの一番にここを訪れた1980年代前半頃は、訪れる日本人はほとんどない、知る人ぞ知る無名の観光地でした。今回三十数年ぶりに訪ねたモン・サン・ミシェルは、当時とはすっかり異なり、日本人はもとより世界中から訪れる観光客でごった返す世界的な大観光地になっていました。ちなみにサン・ミシェルとは英語ではセント・マイケル、つまり大天使ミカエルのフランス語表記です
 モン・サン・ミシェルは、フランスの北東部ノルマンディ地方のサン・マロ湾へ注ぐクエノン川の河口にある岩山です。周囲は低平な湿地帯のため、バスが丘陵を下りて海岸へ近づいていくと、かなり遠くからピラミッド状の姿が望まれ、誰の目にも目的地が近づいていることがわかります(写真1)。以前は本土と島とをつなぐ砂碓上に舗装道路が引かれ、自動車でモン・サン・ミシェルの直下へ横付けしていましたが、砂の堆積が進んだため、2009年に道路を取り壊して水流の流れを良くし、現在は橋によって結ばれています(写真2)。同時にマイカーでのアクセスも禁止され、現在は2kmほど離れたラ・カゼルヌの街から無料シャトルバスに乗って島を訪れることになります(写真3)。
 島は周囲を堅固な城壁で囲まれており、唯一の入口である突出門から中へ入ります(写真4)。その先にはさらに「王の門」が控えていますが(写真5)、その手前には名物のオムレツで有名なラ・メール・プーラールがあります(写真6)。王の門を過ぎると、いよいよ修道院までの大通り(グランド・リュ)で、両側には土産物屋やホテルやレストランが軒を並べています(写真7)。この通りを上りきった先に修道院の入口がありますが、さらに修道院内にある90段の大階段を上らなければ中へ入れない構造になっています(写真8)。頭上にある橋は侵入者を狙い撃つために作られたものです。階段を上がって建物を抜けると、聖堂前の広々とした西のテラスに出ます(写真9)。高さ80mのこのテラスからの眺望は抜群で、先ほど渡ってきた橋や入口が眼下に見下ろせます(写真10)。
 島の岩盤の頂上には、8世紀以来聖堂が建設されてきましたが、何度も崩壊と建設を繰り返し、現在の聖堂は15-16世紀に再建されたゴシック様式の内陣を持ちます(写真11)。一方、岩峰の北側に聖堂と隣接して建てられた修道院の居住空間は、その素晴らしさから「ラ・メルヴェイユ(驚嘆)」と呼ばれています。その最上階には中庭と食堂が置かれ、修道院の生活において重要な位置を占めていました(写真12、13)。メルヴェイユの最下層は現在売店になっていて、ここから島の北側を通って下へ下りるようになっています(写真14)。グランド・リュとは別に、島を半周する城壁の上を歩くことも可能なので、帰りは海を見ながら城壁を下っていくのもよいでしょう(写真15)。
<写真1> モン・サン・ミシェルの遠景 <写真2> 連絡橋から見た島の全景
 

<写真3>  無料シャトルバス「ル・パスール」

 <写真4> 突出門(入口)と王の塔(右)

<写真5> 王の門とラ・メール・プーラール

<写真6> ラ・メール・プーラール
   
 <写真7> グランド・リュ(大通り) <写真8>  入場口(左)と大階段
  
   
<写真9> 西のテラスと大聖堂の尖塔

<写真10> テラスからクエノン川河口方面

 
   
<写真11>  修道院付属教会、内陣 <写真12>  ラ・メルヴェイユ、中庭と回廊
 
<写真13> ラ・メルヴェイユ、食堂  <写真14> 「世界一美しい壁」と呼ばれるラ・メルヴェイユの北面
 
 
<写真15> 城壁の遊歩道からみた島の東側  <写真16> モン・サン・ミシェルの全景
        (2019年 内田順文 撮影)

                                              

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