いじめに耐えられず逆襲の機会を狙っていた。十五で相手を殺しそこねたあげく、ぐれて堕ちてゆく。いじめでゆがんだ自分の醜さを忘れるために酒を飲み、いじめから逃れるため、喧嘩に強くなろうと盛り場で喧嘩にあけくれた日々。沖縄の唄者(うたさー)、安里賢次(あさとけんじ)という人の話だ。
日当を握りしめて三線(サンシン)を買い、見よう見まねで唄三味線にのめり込む。人に聴いて欲しくて名人の弟子をかたり、人前ではじめて歌う。ところが、そこに名人が居合わせた。名人に気に入られ、唄者として生きてゆこうと一度は決意するのだが、ワルの性分が抜けきれない。ケジメをつけるため、自ら小指を切り落とす。それも二度。
カタギになろうと、四十で最後の決意。民謡酒場をきりまわし、唄者として生きているという男の話である。わたしが、どうしたら恋がうまくゆくかと思い悩んでいた青臭い時期に、ある意味で大人として人生を歩いていた、わたしと同じ歳の人の半生記。読み返して唸る(森田純一、唄者という生き方、『沖縄的人生』所収)。
この話の中に出てくる名人が登川誠仁(のぼりかわせいじん)である。映画「ナビィの恋」で、平良とみの夫を演じていた小さな老人だ。島の唄、島の心をきかせる最後の唄者といわれる。それに、たいへん偉い人でもある。しかし、この人の生き方もあやうく怪しく魅力たっぷりだ。こんな爺さんが周りにいたら、誰だって大事にしたくなる。
戦前のウーマク(わんぱく少年)時代にはじまり、米軍相手の大ドロボー、闇市で戦果を売りさばくという血湧き肉躍る敗戦直後の大団円。そして、スターとして生きた眩しい時代。自由に生きた、生きることのできた日々。そして今、静かに島の心を伝える日々。いいなぁ、こんな人生(島唄 オキナワ・ラプソディ 登川誠仁伝)。
わたしは結婚が遅かった。それで、歳のわりに子供が小さく近所の小学校に二人のチビが通っている。オヤジの務めとして、たまには学校へも行く。そこの先生がおしなべて声が小さく、線が細い。今どきの先生だから、きびしい教員試験をめでたく通った優秀な方々なのだろうが、なんだかみんな覇気がない。子供のころからイイ子で通しすぎたんじゃないか? そんなことを考えながらこの本を思い出した。
本の帯に「これは、少年の眼から見た異色の戦後沖縄史である。筑紫哲也氏推薦」と書いてある。「こんな陳腐なコメント筑紫が言うか?」と一瞬思いつつ読み返す。悪くない。昭和20〜30年代のわんぱく少年たちの日々が書いてある。それだけなのだけれど、軽くて笑える話が懐かしい。“清々しい少年時代”が目に浮かぶちょっといい本だ(ウーマク! 宮里千里)。
「PTAで、おとこの先生方に元気が足りないぞと言っちゃえば」と妻に、「子供が先生にいじめられたらどうするの」と妻が。母親と学校の緊張状態を知ったのだった。
■今回登場した本
『沖縄的人生』上野千鶴子ほか天空企画編、知恵の森文庫、光文社、2001年
『島唄 オキナワ・ラプソディ 登川誠仁伝』、森田純一、荒地出版社、2002年
『ウーマク! オキナワ的わんぱく時代』、宮里千里、小学館、2000年
<本文は「教いん養せいセミナー」 2003/03に掲載されたものの原文からおこしました>
○最近の私が薦めるこの一冊
ことしは、開高健の「珠玉」。最近読んだ「玉、砕ける」もすばらしい。開高健はわたしのトラウマ。高校生のとき、国語の読書感想文で開高健を書いたら、若い教員に「生意気だ」とわらわれた。へこんで暗い高校時代を送った。
十年ほど前に、久しぶりに開高健を読んだ。「珠玉」で動けなくなった(かなり誇張)。小説家になれなくてよかった。この人と同業だったら、怖くて、恥ずかしくて文章なんか書けないと思った。この話、「生意気」と言われるのが怖くて、だれにも話せなかったけれどね。
○最近の私が惚れたこの一曲
あの勇ましい BONE IN THE USA とは別バージョンの BONE IN THE USA。私の二十数年来の友人、ブルースが生ギター一本でうたっているうら悲しい曲だ。彼と出会ったのは大学生協のレコード売場だった。この曲は、98年の
bruce springsteen TRACKS という4枚組のCDに入っている。
ずいぶん前に買ったのに、聴いていなかった ゴメンなと、こんど来日したら言ってやろう。「別テイクに名曲あり」みたいなものだと思う。反戦歌としても一級品だ。
○最近の私が唄うこの一曲 (唄う場所は某地のクラブ。一年に一度だけ)
イラヨイ月夜浜 大島保克 >> ようやく サンシンで練習できるようになりそうな気配。
○最近の私の研究成果はこれ
<書籍>
・リモートセンシングデータ解析の基礎、古今書院、1998. おかげさまでよく売れて2002年に再版が出た。でも、ネタが古くなったのでこれで絶版にしようと思う。
<論文>
・サンゴ礁干潟の環境変化と保全(共著)、(財)日本自然保護協会、1994,1995.
・分光反射測定のサンゴ礁環境調査への応用、国士舘大学人文学会紀要、28号、1995.
・文学部地理学専攻学生に対するリモートセンシング教育、国士舘大学情報科学センター紀要、17号、1997.
・サンゴ礁環境衛星地図の作成、科学研究費研究成果報告書、全39頁、1998.
・第二回白保サンゴ礁モニタリング調査報告書(共著)、石垣市、WWFJapan、全19頁、1998.
・石垣島における1998年のサンゴ礁の広範な白化(共著)。日本サンゴ礁学会誌、No.1(1999),
31-39。
・陸域の開発とサンゴ礁浅海域の変化 琉球列島石垣島白保サンゴ礁を例に
「完新世後期における沿岸域の地形環境動態に関する研究 代表者 海津正倫」、科学研究費報告書、2002,3
・国士舘大学地理学教室におけるGIS教育について、国士舘大学文学部紀要、35号、1-88,2003
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