第二回蘇州大学「作詩交流セミナー」


 平成14年(2002)9月2日(月)から10日(火)にかけて、本専攻「漢詩文作法」の授業の一環として、
蘇州大学において第2回の作詩交流セミナーを開催した。


 日程と作品は以下のとおり。

9月2日(月)晴
  07:50  成田空港第2旅客ターミナル三階D39に集合。引率教員は鷲野正明、藤森馨。参加者学生15名。
  08:40  搭乗手続き。
  09:00  離陸。
  1100   上海浦東空港着。
  1200   入国。蘇州大学・唐先生及び大学院生が出迎えてくれる。
          バスにて上海の嘉定孔廟参詣の予定だったが、移動の途中バスが故障。参詣は残念ながら見送り。
        男子学生がバスを押して道路左側に寄せ、一同高架下にてしばらく休息。
        バスを乗り継ぎ、蘇州へと向かう。

  17:00  蘇州飯店到着。水郷楼にて夕食。
9月3日(火)晴
  09:00  蘇州大学・李彩蘭先生、大学院生とともに、呉王闔閭の墓陵・虎丘へ。
  09:50  虎丘到着、闔閭の薨去に際し埋蔵された刀剣類を始皇帝が発掘させ、試し切りをしたといわれる
       試金石等を見、宋代に建立された十五度の傾斜を持つ斜塔等を見学。この塔は、蘇州を代表する
       もので、列車で蘇州にやってくると、まずこの塔が見えるという。

  11:15  寒山寺へ。
  11:30  寒山寺到着。伊藤博文が岡田寒泉の斡旋により、同寺に送った鐘や塔などを見学。
       張継の『楓橋夜泊』に思いを馳せる。

  12:30  昼食。途中より蘇州大学の周秦先生が合流。一年ぶりの再会。
  14:25  唐寅故居址を訪問。故居は市内の小工業地帯に、あたかも時間が止まったかのよう。
       傍らには池があり、周辺ではいつもと変わらない日常生活が営まれている。
       故居には「唐寅故居遺址」の石碑が建ち、わずかにそこが唐寅の故居であることを示す。
       現在は、内山先生の知己・金世華氏が住んでおられる。
       金氏の案内で「準提庵」の遺跡を訪ねる。清代の建築物が今なお利用され、居住者がいる。

  15:30  三国時代の孫権が母の菩提のために建立したといわれる報恩寺の北寺塔を見学。
       塔上からの眺望は抜群で、蘇州市内が一望できた。

  16:20  拙政園到着。明の嘉靖年間(1522〜66)に王献臣が造営した庭園。献臣は中央朝廷に仕えたが、
       失脚後この地に隠棲。庭園名は『閑居賦』の「拙者之為政」に由来するという。
       雄大な庭園を周先生の案内で見学。北寺塔を借景としてあり、実に趣深い。

9月4日(水)晴
  09:10  東呉飯店(蘇州大学)において、周秦先生の講義「詩の余韻について」。通訳は唐先生。
       内容は作詩法にまで踏み込んだ充実したもの。

  12:00  講義終了後、昨年、蘇州大学でお会いした花園大学の下野先生と再会し、旧交を温め、
       午後は花園大学の学生諸君と行動を共にする。

  13:10  蘇州文廟に到着。五代時代に成立したといわれる大成殿を見学。修築なった巨大な孔子画像や
       祭祀楽器などを身近に実見した。

  16:20  蘇州で最古の庭園として有名な滄浪亭に到着。周先生の案内で園内を散策。
       当園は、五代の頃に、銭氏が造営し、宋代に改築して現代にいたっている。
       庭園名は『楚辞』の「滄浪之水清兮可以濯我纓」に由来する。
       この庭園は蘇州大学医学部に隣接しており、庭園前の川には釣り人が釣り糸を垂れていた。

9月5日(木)晴
  08:50  崑山市へ向けて出発。
  09:35  崑山市の帰有光の墓所である震川園到着。碑文によれば、明代の文人帰有光の墓所はもと金潼里に
       あったが、1989年現在地に夫人魏氏とともに遷葬され、公園として整備されたという。
       墓所には「明南京太僕寺丞帰有光先生之墓」と記され、頭像が建てられている。

  10:30  帰有光関係の文物を求め、市博物館文史館に行く。残念ながら関係文献は微少。
  12:00  昼食。
  12:30  昼食をとったレストラン横の顧炎武の故居に行く。工事中のため参観は不可。蘇州へと帰路につく。
  14:45  蘇州城の遺跡盤門に到着。城壁と運河を組み合わせた独特の城門や瑞光寺塔、呉門橋等を見学、
       伍員祠などを参詣。蘇州城の歴史は紀元前の春秋時代に遡及する。現在の城壁は元代のものという。

9月6日(金)晴
  09:00〜11:30 東呉飯店にて作品の発表準備。
  14:0017:15 東呉飯店305号室。緊張の中、作詩発表会が行われる。周先生講評。
       蘇州大学院生王瑜・張蕾・許各氏も参加。 
  17:3019:00 送別の宴。
9月7日(土)小雨
  09:50  蘇州飯店を出発。周先生と唐先生が見送りに来て下さった。
       周先生には、学生一同より御礼の品を進呈。
       先生は私ども一同のために、
送別の詩と、重陽にちなんだ月餅を贈って下さった。
  11:30  台風の影響で小雨降る水郷周庄に到着。周庄に入るには入園料を払わなければならない。
         昼食を終え、1230分頃より周庄の古民家や土産物店などを見学。その後、小舟に乗って運河から
       町並みを眺める。船頭の櫓さばきは見事で、驚嘆することしきりであった。

  15:00  周庄を後にして上海へ。
  17:00  上海駅近くの中亜ホテルに到着。
9月8日(日)晴
  09:20  上海博物館に到着。各自見学。展示替えや改装のため閉館部分が多く、彫刻類や印譜、書画及び
       少数民族に関する展示しか見られなかった。期待が大きかったため残念に思う者もいたが、
       再度の来館を期して
1130分に辞した。昼食。
  15:30  上海書城前で解散。自由行動。
  16:00  博物館駐車場に集合。バスに乗車し、友誼商店で下車。バンドを見学。
       対岸の明珠塔をはじめ林立するビル群の夜景はすばらしい。

  19:3021:00 大極時空と題する雑伎を見学。テーマ性があり、雑伎とは思えない舞台に目を奪われる。
9月9日(月)晴
  09:40  三国時代呉の孫権により建立された龍華寺に到着。ちょうど中興和尚の遷化法要が執行され、
       結縁を求める善男善女で境内は混雑していた。  

  11:30  老街の料理店で昼食。明代の名園豫園を見学後、自由行動。
  17:00  中亜ホテルに帰館。食事の時に、前夜作成の聯句の秀作の発表があり、一年生の荒井君・小島君、
       国文専攻の岸本君・高橋君に記念品を、そして聯句に高得票を得たエンターティナーの平井君に、
       特別賞を受与。

9月10日(火)晴
  09:00  ホテルロビーに全員集合。
  10:30  浦東空港に到着。今回一同を最初から最後まで案内して下さった蘇州大学の李彩蘭先生と別れ、
       出国手続。

  1310(中国時間) 離陸。
  1646(日本時間) 成田着。


 学生は蘇州で連日過密なスケジュールをこなし、かつ徹夜で作詩したため、上海では疲労気味だったが、
怪我人・病人もなく、無事に帰国した。



   漢詩作品集        於蘇州大學 九月六日

    向蘇州途上、車生故障而不動 九月二日        鷲野 正明
  炎威爍石路中央 車内淋漓汗若漿 且憩小陰塵滾滾 姑蘇遙想水花香

    伯虎故居偶遇師之知人 九月三日                        鷲野 正明
  行尋伯虎舊居邊 只有小池徒自憐 偶遇高年是師友 人間最愛好因縁

    訪唐寅故居 同                                           鷲野 正明
  北寺塔前家又榮 桃花塢外午風輕 今宵定夢呉歌裡 伯虎秋香傾一
●   ●さかづき・コウ〔角+光〕

    訪震川園 九月五日                                       鷲野 正明
  崑山城内震川園 頭像迎人
克繁 魏氏共眠新墓下 婁江流畔落花飜

    九月五日不得訪震川祠堂、夜讀「野鶴軒記」    鷲野 正明
  玉峯山下斷塵縁 蒼碧
●●涼亂蝉 野鶴軒中殊有趣 茶煙●處汲清泉   ●●リンジュン〔山+隣の旁〕〔山+旬〕
                                    ●あがる〔風+易〕
      新秋                                     藤森  馨
  殘炎不息火雲張 松下蝉
鳴已夕陽 驟雨一過涼徹骨 輕風瑟瑟白蓮香

    過虎丘                              修士二年 斎藤  聡
  梵宮古塔碧山中 四面千林立晩風 遠到蘇州異邦客 夕陽漸仄望西空

    滄浪亭                修士一年 北澤  実
  水流澹蕩返紅
 翠竹揺風涼滿亭 乘興戯遊時復息 浸忘俗累只觀星   ●ひかり・ケイ〔火火+ワカンムリ+火〕

    拙政園                             修士一年 重倉 政智
  池中碧水送清涼 無聴蝉聲秋色彰 風起樹揺消酷暑 庭園古屋浴斜陽

    虎丘                             修士一年 安西 孝行
  古堂樓閣倚高臺 雲去悠悠風蕩駘 漫歩忘歸天下勝 青山獨領美觀財

    訪故居                中文四年 新井 俊崇
  一片桐花在眼前 故居仰見獨蕭然 蟲聲忽起破閑寂 生命悠悠幾百年

    拙政園               中文四年 大久保裕一朗
  暮色倚稀籠冷泉 旅人無語聴潺湲 紅蓮微動起詩趣 如夢風光念舊年

    旅愁                 中文四年 都築 康子
  溽暑炎炎登小丘 松陰樹下與朋遊 晩來微到淙淙響 家遠歸心忽起愁

    偶成                 中文四年 徳丸 貴彦
  初到蘇州泊宿坊 閑窓静寂送斜陽 今天訪古得思慮 詩作忘言似老荘

    旅愁                  中文四年 山崎 勇一
  旅亭窓外聴遙雷 絲雨一過雲才開 獨夜無聊空對酒 心頭寂寞晩涼催

    消夏                 中文四年 山本 佳奈
  暑威未散午風疎 泉水送涼塵念虚
 落日幽庭殘柳下 蜻蛉款款自悠如

    拙政園                                国文三年 岸本真利子
  亭前竹樹
拷A繁 日暮紅雲映幽泉 微響蝉吟消俗念 詩成一榻枕書眠

    尋古堂                国文三年 高橋 明子
  古堂新翠夢中尋 笑語天高静寂侵 相照斜陽流水畔 蟲聲隱隱固無心

    詠姑蘇                中文二年 平井 裕貴
  濃陰夏日只蝉
聲 小徑風香一水清 遊子心頭無限好 森羅萬象動吟情

    蘇州偶成               中文一年 荒井  禮
  臨水村莊吐古香 金風吹袂近重陽 佳篇欲作擧杯處 美女嫣然吟席傍

    盤門                 中文一年 小島 美穂
  飛閣大城風景鮮 鳥聲滿樹旅愁新 登樓極目感無量 流水白雲隔炎塵

          柏梁體聯句     於上海 九月九日

       中国一歩未来光  小島
       蘇州庭園誇麗粧  安西
       百城煙水荷香  鷲野   ●ひし・キ〔クサカンムリ+支〕
       古来山水又非常  斎藤
       項羽西楚成覇王  山崎
       墨客去来滌塵腸  鷲野
       清昼蝉鳴火雲張  岸本
       一里曳杖坐池塘  徳丸
       泉水風起払垂楊  都築
       金風玉露一庭涼  平井
       村園日斜蜻揚  高橋   ●とんぼ・テイ〔虫+廷〕
       彩
雲紅湖麗夕陽  荒井
       柳条仰見月如霜  重倉
       菊花楚楚万古芳  山本
       幽巷誰歌詩一章  北澤
       忘時尽宴桃源郷  藤森
       一朝去呉碧空翔  鷲野
       忽到上海遊心昌  鷲野
       魔都夜景集人場  大久保
       外灘夕暮塔影長  新井