※ 「今月の衛星画像」 2006年のテーマは 河口 です ※

Vol.8−10   2006年10月号

名蔵川河口 アンパル:ラムサールに登録されたサンゴ礁干潟 

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 2006年のテーマは「河口」です。衛星画像で世界中のさまざまな河口を見てゆきましょう。


 沖縄の地方紙を見ていたら、知り合いの名前と懐かしい地名「アンパル」を見つけた。これまで、日本の「河口」を取りあげていなかったので、今月は名蔵川河口の話である。画像3は、SPOT衛星の画像に、標高データを重ねて3Dにして表示させたものだ。アンパルは、2005年にラムサールの登録湿地となった沖縄県石垣市の名蔵川河口に広がるサンゴ礁干潟である。ちなみにアンパルとは、「網を張る」という意味の方言に由来するらしい。魚を捕るときの網のことであろうか。
 知り合いの某先生は紙上でこう語っている。「湿地は移ろいやすいが、アンパルは急速に陸化が進んでいる。30年前の干潟の砂は白く目が痛いほどだったが、今は赤土などで茶色になっている」と。その通りで、ラムサールに登録されたとはいっても、今のアンパルでは「昔はもっときれいだったのに」と、いろいろなものを見てぼやくことが多い。
 日本のマングローブ湿地は、大部分が幅の狭い河川沿いの低地に存在する。また、サンゴ礁礁原に成立するマングローブ林はない。名蔵川河口では、干潟化が進行したラグーンにマングローブ林が成立し、内陸に旧砂州や水田・草地の後背湿地がみられる。また、名蔵湾のサンゴ礁は、内湾型のサンゴ礁地形で、離礁や礁原、凹地が複雑に配置している。そして、大量の土砂が流入し堆積している。
 15年ほど前の話だが、この干潟を調べたことがある。その時のレポートは、日本自然保護協会のWebに一部が載っている。このときの調査では、アンパルのヒルギ林(いわゆるマングローブ林)が急速に分布範囲を広げていることがわかった。背後の耕地から出た放水路(画像3のc)が干潟にのびて以降、流れ込む堆積物が増加し、干潟の表層の色が次第に赤茶けてきた。背後からいろいろなものが放水路を通じてサンゴ礁干潟へ流れ込み、富栄養化が進行しているらしい。マングローブ林の陸側(画像3のb)は、近年になって伐採されてしまったようで、そのさらに陸側には「優良農地」が広がっている。
 いっぽう、マングローブが前進している部分では、ほじくり返すとかなりきつい臭いを発する場所もある。その下層には、サンゴレキやサンゴ砂の層があり、直径1〜2mのマイクロアトールが埋まっているところもあった。湾口は新しい砂州でふさがれつつあるが、この砂州の内側には古い砂州があり、4000年ほど前の貝塚がある。これでアンパルの生い立ちの概略が組み立てられる。すなわち、旧期の砂州が形成された後に、その内側でマングローブ低地の形成が始まり、その後に現在海岸線沿いに見られる砂州が形成され湾入部の埋積が進行したのであろう。新しい砂州の部分にある貝塚の年代は1500年〜1000年前後である
 ところで、名蔵川河口沖には画像3のdに見えるように少し深い部分がある。海面が低かった時代の流路の跡と思われる。この部分で撮影した写真が画像4である。サンゴレキや砂に覆われた海底から立ち上がるサンゴのパッチで、石垣島の浅い海ではあまり見かけないヤギ類(赤く見える)がここには多かった気がする。
 なお、今月の地理写真でも、かつてここを取りあげている。地図はこのページを参照いただきたい。



画像1 石垣島の西海岸に名蔵湾はある。
画像2 南西の山(画像3のa)から見た名蔵平野。中央左に放水路が干潟にのびる(1994年撮影)。  画像3 西側から見おろしたアンパル干潟 SPOT画像(2003年BASE IMAGE NTT(c) DATA)に50m DEM を合成。マングローブ林の最奥部bは、おそらく近年になって陸側から伐採されたものと思われる。
画像4 名蔵湾に見られるサンゴのパッチ。周辺の海底はサンゴレキや砂に覆われ、生サンゴの被覆率は高くない(1994年)。
画像4 満潮にむかうアンパル干潟。2000年 画像5 アンパルに流れ込む白水(しらみず)の谷で見られる植生。2000年