ノルウェーのフロム鉄道(写真1)は,ラック式鉄道など急勾配を登るための特殊な構造や装置を持たず,車輪とレールの摩擦力だけで走る鉄道(粘着式鉄道)としては,「世界でもっとも急勾配を走る」鉄道である,とされている.全体の80%が傾斜度55‰(パーミル:1,000m進んだ時の高度差.55‰の場合は1,000mで55mの高度差ということ)とのこと(フロム鉄道HPより).「世界でもっとも急勾配を走る」というと,特定の区間の傾斜がとてつもなく急勾配であるように感じられるが,フロム鉄道は全線を通じた勾配がもっとも大きいということらしい.
いずれにしろ,急勾配なのはフィヨルドの斜面を一気に登る(下る)ためで,フロム鉄道から見える山岳風景や海岸線の美しさは「ヨーロッパ景勝ルート」(Scenic
Routes;「今月の地理写真」(2009年01月号)にもあるように『トーマスクック・ヨーロッパ鉄道時刻表』に掲載されている)にあげられるほどであり,ノルウェーの観光名所のひとつである.
日本からのツアーで行く場合,以下のルート(または逆ルート)を通ることが多い.オスロ(Oslo)~ミュルダル(Myrdal)は,ノルウェー鉄道ベルゲン線(こちらも「ヨーロッパ景勝ルート」にあげられる).ミュルダル(Myrdal)でフロム鉄道(ノルウェー鉄道フロム線)に乗り換え,フロム(Flåm)まで.フロム(Flåm)~グドヴァンゲン(Gudvangen)は船(フィヨルドをゆく観光船).グドヴァンゲン(Gudvangen)~ヴォス(Voss)まではバス.ヴォス(Voss)から再びノルウェー鉄道ベルゲン線でベルゲン(Bergen)まで,という行程である(図1).このルートは「ノルウェー・イン・ナットシェル」(Norway
in a Nutshell)と呼ばれるコンビネーション・ツアーのルート(日本でいえば立山黒部アルペンルートのようなもの;乗物の運行主体の違いを気にせず,1つのルートとしてチケットを購入できる(日本でも手配可能))である.
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写真1
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図1
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2001年8月,私もベルゲンからオスロまでをこれに近いルートで辿った.ただし私の場合,ノルウェー・イン・ナットシェルではなく,ソグネフィヨルド・イン・ナットシェル(Sognefjorden
in a Nutshell)と呼ばれるルートを使った.このルートはベルゲンからフロムの間を船で直接行くルートで,ソグネフィヨルドのクルージングを満喫できる.ソグネフィヨルド(全長203km)の半分以上の距離を船で行く旅となる(その分,少し時間が掛かる)(ソグネフィヨルドについては「今月の衛星写真」(2005年09月号)も参照下さい).
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写真2 |
写真3 |
出発地はベルゲン(写真2).見ての通りの天然の良港.波がほとんどないのが分かる(写真3).というのも,ベルゲンの港の前に広がる海もフィヨルド(Byfjorden)だからである(写真4).ベルゲンが13世紀末頃にハンザ同盟の主要な都市の一つとして発展したのも地形的に天然の良港であり,また不凍港であることから,それを背景に海産物の水揚げ港として,またその貿易港として,利便性が高かったからこそであろう. |
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写真4 |
写真5 |
なお,写真1はベルゲンの街の西にあるフロイエン(Fløyen)山(写真5)から撮ったもの.フロイエン山にはケーブルカーで気軽に登れ,街・港の様子をよく見ることが出来る.
さて,ベルゲンといえば,ハンザ同盟都市として栄えていた頃に建設された旧市街(ブリッゲン(Bryggen)地区)が世界遺産に登録されていることで有名.ブリッゲン地区は写真6の丸で囲まれたあたり.三角屋根の木造建物が有名(写真7).路地に入ると路地も板張りになっている.海産物の運送に便利なように(重くても荷車等が動かしやすいように)板張りにしてあったらしい(写真8).港を囲む建物にはブリッゲン地区の建物を模倣した石造りの建物もある(写真9).
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写真6 |
写真7 |
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写真8 |
写真9 |
写真10はベルゲンで見かけた傘の自動販売機(umbrella machine).西岸海洋性気候のため,緯度のわりに暖かいとはいえ,その分,降水量・降雨日数は多い.湿度も高く,濡れれば寒く感じられることから,傘を持ち慣れないヨーロッパ人もさすがに傘を買わずにはいられないからこそ存在する自動販売機といえよう.これも「気候景観」のひとつと言えるかもしれない!?
ベルゲン駅(写真11)で,ソグネフィヨルド・イン・ナットシェル(Sognefjorden in a Nutshell)のチケットを入手し,いよいよオスロへの旅へ出発! であるが,この続きは次回,加藤担当月の「今月の地理写真」で…….
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写真10 |
写真11 |
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<写真1~10:2001年8月,加藤幸治撮影.図1はフロム鉄道HPより許可を得て転載>
参照HP:http://www.flaamsbana.no/jap/Index.html(日本語ページ) |