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VOL.25-04
  2023年04月

  愛媛県今治市のランドスケープ-植生景観を中心に-

磯谷 達宏


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3年生の地理学野外実習で、愛媛県今治市のランドスケープ(植生景観など)を広く見て回る機会があったので、紹介する。

写真1:西南日本内帯に位置する今治平野  写真2:JR予讃線の大西駅に入線する列車

 今治の市街地がある今治平野は、四国でも中南部とは違って「西南日本内帯」に位置するため、穏やかな山域にとり囲まれている(写真1)。写真2は、今治市北部の大西駅に入線する予讃線の列車である。2022年秋に行なわれた磯谷ゼミ3年生の野外実習は、大西駅が最寄りのビジネスホテルに宿泊して行われた(関連画像が本サイトの「専攻の写真帳 バックナンバー」にあります)。

http://bungakubu.kokushikan.ac.jp/chiri/HPphoto/20221025_%E9%87%8E%E5%A4%96%E5%AE%9F%E7%BF%92B%E3%80%80%E7%A3%AF%E8%B0%B7%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9/newpage4.html
写真3:織田ヶ浜の海岸植生  写真4:ハマゴウと瀬戸内海

 写真3に、今治平野南部にある織田ヶ浜の海岸植生を示した。市街地に近く人の立ち入りが少なくない砂浜であるが、海岸草原の保全状態は予想以上に良好で、汀線寄りの多年草群落(コウボウムギとハマヒルガオが優占)から内陸側の低木林(ハマゴウが優占)への移り変わりが明瞭に認められた。写真4は、低木のハマゴウが匍匐前進して、汀線側まで伸び出た様子。

 
写真5:愛媛県では希少なハマナタマメ  写真6:唐子浜付近の「赤灯台」と瀬戸内の島々

 織田ヶ浜の一部では、愛媛県では希少な海岸植物のハマナタマメ(隣の松山市では絶滅危惧Ⅱ類)の生育を確認することができた(写真5)。ハマナタマメはこの1個体しかみられなかったが、海流散布植物なので、最近、種子が漂着して発芽・定着した個体なのかもしれない。隣の唐子浜では、クラシックな赤灯台(明治35年建設)をみることができる。

 
写真7:コジイ二次林の相観    写真8:コジイ二次林の林内

 今治平野をとり囲む穏やかな山域の里山には、アラカシ二次林(常緑広葉樹林)、コジイ二次林(常緑広葉樹林)、コナラ二次林(夏緑広葉樹林)などの多様な雑木林が生育していた。写真7と8は、コジイが優占する比較的発達した(自然林に近づいた)二次林の様子である。

 
写真9:アラカシ二次林の林縁部(獣害対策の金属柵がある)  写真10:獣害対策の罠と金属柵

 今治市の里山でも、イノシシ、シカ、サル、ハクビシンなどによる獣害が少なくないようであった。写真9は、里地(左側)と里山(アラカシ二次林:右側)との境界に沿う小道付近の様子である。小道に沿って、金属製の柵が設置されていることがわかる。写真10では、小中型獣用の罠がみられる。

写真11:今治市内を流れる蒼社川の河口付近 写真12:蒼社川下流域の河辺植生

 今治平野の中央を流れる蒼社川は、脇の道路から河原に入りやすい上に、河辺植生が各所でよく発達しており、川の生物を調査・観察する上でとても良いフィールドであった(このような河川は西南日本の内帯でよくみられる)。写真11は、河口付近の汽水域の様子。写真12は、下流域における河辺植生の成帯構造がとくに良く発達した場所の様子である。水際の1年草群落(ヤナギタデやミゾソバなどが優占)から、平均的には少し高い小段丘上に多い多年草群落(ツルヨシやオギなどが優占)、さらにはもう一段高い小段丘上の低木林(ヤナギ類などが優占)まで、綺麗に配列していた。

<写真1~12:2022年10月25-28日,磯谷達宏 撮影>



                                              

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