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VOL.26-06

  2024年06月

  静岡県牧之原台地の茶畑

磯谷 達宏

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写真1 ふじのくに茶の都ミュージアムより牧之原台地北縁を望む
  写真2  写真1の奥は大井川下流部
 茶畑で有名な牧之原台地(牧ノ原台地)の、平坦ながらも緩やかに傾斜する地形は、約13万年前の最終間氷期最盛期の直後に、かつての大井川によって形成された扇状地とそれに続く三角州付近の地形が元になって、形成されてきた(長田1980,鎮西2006)。写真1は、牧之原台地の北縁に位置する「ふじのくに茶の都ミュージアム」から北側を望んだ様子。写真1の奥に見える低い土地が、大井川の下流部である(写真2)。 
 
 
写真3 開花したチャノキの花(11月19日)  

写真4  チャノキの新葉(5月5日)

 茶畑で栽培されるチャノキ(Camellia sinensis)は、アジア原産の常緑広葉樹(照葉樹)で、ツバキ科ツバキ属に属する、サザンカやツバキ類に近縁の植物である(写真3:11月19日撮影)。日本の照葉樹林帯で広く栽培されているチャノキは、各地の樹林にて野生化した個体もみられる。茶畑では、春から夏にかけて展開する新葉(写真4:5月5日撮影)が、一番茶や二番茶などとして収穫される。
 
 
写真5  ふじのくに茶の都ミュージアム付近の茶畑   写真6 写真5と同じ茶畑の遠景
   5月5日に撮影された写真5と写真6では、新葉の茶畑が広がっている。
 
     
写真7 防霜ファンが林立する茶畑  

写真8 調整水槽(左端)と防霜ファン

 茶の新芽・新葉には春の遅霜が大敵なため、茶畑には数多くの防霜ファンが設置されている(写真7)。牧之原台地は、太平洋に突き出た半島状の地形で冷気が比較的たまりにくいため、内陸部に比べると遅霜の影響を受けにくい。しかし、よく晴れた無風日の明け方などには、放射冷却にともない地表付近に溜まった冷気の影響を受ける可能性がある。そのような日には、防霜ファンで地表付近の冷気と上層の暖気とを撹拌するのが、霜害の防止に効果的である。牧之原台地では、3月から5月上旬あたりまで、新芽や新葉の霜害を防ぐための防霜ファンによる対応が行われている。そのほか牧之原台地は、上述のようにかつては扇状地だったため水を得にくく、農業用水の確保も重要で、各地にて調整水槽が設置されている(写真8)。

     
  <文献>

・長田敏明(1980)静岡県牧ノ原台地の形成過程.第四紀研究19,1-14.

・鎮西清高(2006)有度山-渥美半島の台地・丘陵.『日本の地形5 中部』(町田 洋ほか編著),229-237.東京大学出版会.

     
<写真1,2,4~8:2023年5月5日(牧之原台地にて)、写真3:2012‎年‎11‎月‎19‎日(神奈川県湯河原町にて)、
磯谷達宏 撮影>

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